夏休み企画

12.


「どうかしたのか?」

 止まった背中に声を投げ掛けると、鹿目は片手を挙げて応じた。

「いや、何でもない」

 そろそろと、大きな破片を踏まないようゆっくりと前進する。ふと、隣で待機していた光が首を傾げる。

「そういえば、葉木先輩がえーと、いつだったかな・・・ロッカーは制服掛けるのにしか使わないから小さいロッカーは使ってないって言ってたような・・・」
「何で制服のストック持ってるんだ・・・?」

 ――いや、大事なのは制服ストックの有無ではない。制服を掛けられる縦長のロッカーは教室の入り口にある1つだけだ。つまり鹿目が向かった小さな個人用ロッカーは使われていない事になる。というか、よく考えてみたら物が散乱していて危ないのにわざわざその危険なロッカーを使用するメリットがない。
 ここは葉木壱花の個室。他人に遠慮して端から詰める必要など無いのだから。
 ガチャガチャ、と何か戸惑っているような音が鼓膜を叩いて我に返った。ロッカーを閉めるだけなのに何を手間取っているというのか。

「鹿目?何をやっているんだ」
「・・・何か引っ掛かっているようだ。閉まらない」

 えぇっ、と光が大袈裟な声を上げた。先程まで失せていた恐怖心が戻って来たらしく、再び顔面を蒼白にしている。

「帰って来た方が良いっすよ、先輩!それ絶対ヤバイですって!」
「いやだが・・・」

 何で閉まらないんだ、とブツブツ言いながら鹿目が開いた隙間から手を突っ込む。どうやら開閉運動だけでは引っ掛かりが取れないと判断したようだ。

「痛っ・・・」

 突っ込んだ手はすぐに引き抜かれた。それと同時、眉根を寄せた鹿目がロッカーを閉めず帰って来る。
 戻って来た鹿目は突っ込んだ方の右手に切り傷を作っていた。うっかりカッターナイフか何かで切ってしまったような、真っ直ぐな切り傷だ。負傷者である鹿目は落ち着いているが、光は慌てている。

「何か刃物のようなものを入れていたみたいだな。触らなければよかったよ」
「うわあああ、鹿目先輩、もっと慌てましょうよ!!」
「慌てたところで怪我が治るわけじゃないからね。絆創膏か何か欲しいな、そろそろ戻ろうか」

 あとで葉木に一言注意しておかないと、そう言う鹿目はもう少し憤慨してもいいだろうにやはり冷静だった。体温を感じさせない物言いに少しばかり背筋が冷えたが、目の前で喧嘩でも始められるのは嫌なので黙っておいた。