10.
「美術室だな」
鹿目がぽつりと呟いた。3階から下りて行く形で部屋を見て回る手筈だが、2階にはめぼしい部屋が美術室しかない。他は準備室とかそんなのなので、当然の如くカメラ片手にドアを開け放つ鹿目はふと動きを止めた。
「どうかしたのか？」
「いや・・・思いの外片付いていると思ってね。確か、美術部は2ヶ月後にコンクールを控えているはずだったが」
「そうなのか？すまん、文化部の事はよく分からないんだ」
「というか、散らかってる方が良かったんすか？」
目を細めた鹿目は無心でシャッターを切りながらポツリと呟いた。
「いつだったか、美術室は常に散らかっていると聞いたんだがね。気のせいだったようだ」
「あー。そりゃ、葉木先輩はもうこの部屋使ってないし・・・だったら綺麗でおかしい事はないんじゃないすかね」
「葉木？そういえば、今日のメンバーにもいたな」
「もー、鹿目先輩、俺より葉木先輩との付き合い長いじゃないっすか！」
人名は覚えられないんだ、と光を両断した鹿目はふと廊下を見やる。月原から概要は聞いているので、彼が致命的に顔と名前を覚えられない人間である事は知っているが、何かとんでもない事を言い出しそうな予感がする。
「この、美術室の下にある教室。確か、葉木ルームとか呼ばれていたな。心研部の葉木と同一人物だっただろうか？」
「・・・なぁ、鹿目。お前、一度でいいから病院行った方が良いんじゃないか？」
「3回程行ってみたが無駄足だったんだ。もうこれ以上試す気にはならないな。それで、どうなんだ？葉木ルームと葉木は同じ人物なのか」
「同じ人っすよ！でも、あの部屋は行きたくないっすね。足下危ないし」
聞いているのかいないのか、光の言葉をスルーした鹿目は真っ直ぐに階段へ向かって行った。正直行って肝試しという感じはほぼ無い。光は一人肝試しみたいに怯えているが、彼を見ていると自分がしっかりしないと、という謎の心理状態にさせられるので恐怖感が消えるのだ。
「それにしても、夜の学校は不気味だな。何と言うか、気温が低いように感じるというか・・・」
「あー！分かるっすそれ！何かひんやりしてますよねぇ」
「昼間は人で溢れかえっているのに、夕方になればみんな帰ってしまうからだろうか」
「俺も、部活終わりにうっかり教室に忘れ物とかした時は泣きたくなるっす！」
共感者を得た光は活き活きとしている。こいつ、今まで怖がっていたのは演技じゃないだろうな。