09.
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「今、何か声が聞こえなかったか」
別棟探索2班にて。
すでに幾つかの教室を回ったところで鹿目がふと呟いた。どこを見ているのか班別し辛いその目は部室棟辺りを見ているように思える。
今回ゲスト参戦の雄崎恭平はすでに震えている後輩が纏わり付いて来るのを引き剥がしつつ、その呟きに応じた。
「いや、俺には何も聞こえなかったぞ」
「気のせいか・・・まあいい。部室棟はこの時期、荷物で散らかっているからね。誰かが転んだんだろう」
「そうなんすよねぇ、片付けても片付けても物が出て来るっていうか・・・」
「光。お前のロッカーからトランプが出て来たと千彰が言っていたぞ」
「げっ!あの野郎、チクりやがって!!」
喋っている時は恐怖を忘れているあたり単純で良いな、そう思いながら鹿目の様子を伺う。彼は肝が据わっているようで、肝試しと言うよりは報告書を書く為の情報収集という事務的な感じがする。
さて、今まで技術室と工作室を回った。特に何事も無く順調に全てが進んでいる。
「芳垣。良い事を教えよう。今から入る教室は理科室だ」
「えぇ!?何で俺にそれ言ったんすか!?」
「お前の怯えっぷりは見ていて面白いからな。話に夢中でこの機会を逃すのは好ましくない。そして、懐中電灯を持っているのはお前だ。早く中を照らしてくれないか」
ぶつぶつ言いながらも光が懐中電灯を理科室の中へ向けた。割と綺麗に片付いてはいるが、ホルマリン漬けに骨格標本は異様な存在感で佇んでおり、正直真昼でも不気味なくらいだ。
――否、そもそもこの別棟は昼間でも日陰で雰囲気がある場所ではあるのだ。この辺に根城がある文化部は平気な顔をして出入りするが、授業時以外は立ち寄らない運動部にしてみれば未知の世界。
ひぃぃぃ、とあからさまに怯える光。それを見かねてか鹿目は写真を撮りながらこう言った。
「そういえば、別棟は毎年出来る七不思議が一番多い場所でもあるな。理科室や音楽室ではなく、踊り場や地下の話が多いが」
「ちょ・・・!?鹿目、どうして今それを言うんだ・・・!」
「・・・?何かおかしな事を言っただろうか。俺は毎年毎年、何故この別棟だけが教室内ではなく廊下や階段での話ばかりになるのか疑問に思っているんだ。それとも、君はそう思わないのかな?」
「恭平先輩は知らないっすけど、俺は全然気にならないっす!もおおお!!怖い、つってんのにィ!!」
憤慨する光のおかげで一瞬だけ凍り付いた空気が元通りになった。どうやらあまり彼とは相性が良くないらしい、と恭平は嘆息する。いまいちノリが合わないというか、何というのだろう。こういう状態。
しかし、光は騒がせるといつまでも騒がしかった。
「ああああ!?今、今ちょっと模型動きませんでした!?あの人体模型!!」
「何?1分程前の写真に人体模型が写っている。確かめてみるか?」
「いやいや、そんな事より次へ行こう。どうせ光の見間違いだ」
ただでさえ部屋数が多いというのに進まない進まない。次の教室は出来れば鍵が掛かっていますように、こっそり心中でそうお願いした。