夏休み企画

05.


 ***

「ああそうか、部室棟は窓が無いからね。余計に不気味に感じるよ」

 部室棟1階。須藤くんが妙に感心したようにそう言った。というのも、部室棟と言えばかなり広く造った廊下を改造し、普通の教室の半分くらいに割った造りになっている。プールとかで見掛ける着替え室みたいなものか。

「俺は部室棟嫌いとさねぇ。いっつも汗臭かけん」
「ああ確かに、今もちょっと臭うね」

 確かに放課後、心研部の部室へ行くと上の階からちょっと汗臭いような臭いがする。運動量の多い運動部は冬場でも汗だくで帰って来るので1年を通してそんな臭いがするだろう。
 さて、と不意に須藤くんが立ち止まった。懐中電灯を持っていたので先頭を歩いていたがいきなり止まったものでその背中に清澄くんが衝突する。

「いきなり止まらんでくれるかな。危ないやろ」
「悪かったね。ところで、俺には懐中電灯なんて必要ないからお前が持ちなよ。きっと必要になるよ、これからね」
「一番前歩くのが嫌になったとやろ。けど、ライト持たんとやったら一番後ろを歩いてもらうけんね」
「何その謎理論。まあ、構わないけど」

 懐中電灯が清澄くんに渡され、代わりに須藤くんは私の後ろに立った。恐いので背後に立たせたくないのだが、そんな私の思いは清澄くんには届かない。
 いきなり何か攻撃されてもいやなので持っていたデジカメを首に掛ける。こんな高価な物を壊そうものなら弁償は不可避。傷一つ付けず月原くんに返さなければ。

「それにしても、荷物が邪魔やね。エナメルのヒモとかに足引っ掛けんようにせんばよ、特に葉木ちゃん」
「えっ、何で名指し!?」
「だってお前、いつもすぐやらかすやん・・・」
「うっ、おっしゃる通りで・・・!」
「わあ」

 気の抜けた声。ただしそれは私のものではない。
 瞬間、背中に思い切り何かが――否、普通に須藤くんがぶつかってきた。体感的には軽くタックルされたようなレベル。おいおい、「わあ」じゃねぇよホント。
 縦一列になって進んでいた私はドミノのように須藤くんに押される形、そう、須藤くんに押される形で、清澄くんに突っ込んだ。これぞ人間ドミノ。

「ぎゃああ!?」
「うおっ、何暴れよっとさ。視界も足場も悪かけん、ちょっと落ち着かんね」

 清澄くんの背中に突っ込んだ私はそのまま停止した。よかった、清澄くんが頑丈で本当に良かった。そうじゃなかったら大惨事からの大事故という凄惨コンボを決める事になってしまうところだ。
 少しだけ怒ったように清澄くんが振り返る。前だけを照らしていた懐中電灯が今起きたプチトラブルを照らし出した。途端、清澄くんの顔が呆れ顔へ変わる。

「何ね、何かに引っ掛かって転んだわけじゃなかやろそれ。お前、時々仕事が雑やぞ司。そこ、何も無かやん」
「うわあああ、ごめんね清澄くん!本当、私はちゃんと前見て歩いてたんだよ!?そしたら、須藤くんが転んで!!」
「えーっとね、葉木さん。その話は少し前に終わったけれど」