夏休み企画

03.


 そんな身内同士の和気藹々(除:鹿目)に終止符を打ったのは芳垣くんが連れてきたとある人物だった。それは3年なら誰でも顔と名前くらいは知っているだろう(除:鹿目)。
 端整な顔立ちからのスポーツ刈り。野球部ですと言われて違和感の無い風貌だが彼は野球部ではない。
 芳垣くんに連れられてやって来た男子生徒は荒々しくも丁寧に軽く頭を下げた。

「今回は誘ってくれてありがとう。知っているとは思うが、俺はサッカー部部長の雄崎恭平だ。今日はよろしく頼む」

 まともな人来たァァァ!!
 そんな心の声が部員の間で反響する。ゲストと言えばちょっと変わった子が多かったのだが、ここに来て人格者の登場。意外な人選である。堂々と遅刻しておきながらこの反応に戸惑った雄崎くんはしかし、首を横に振った。

「集合は8時だったな。すまない、光を急がせたが間に合わなかった」
「う、すんません先輩・・・」
「いい、お前の遅刻癖を忘れていた俺にも問題はある」
「ああああ!その!良心をチクチク攻撃してくるの止めて欲しいっす!!」

 ふむ、と鹿目くんが頷く。雄崎くんが丁寧に自己紹介をしたおかげで彼の忘却癖が浮き彫りにならなかったのは良い事だ。
 全員で9名。もうここまでくれば肝試しが1組何人で何個班が出来るのかまで浮き彫りだ。ついでにどこを回るのかもうっすら見えて来る。

「まあ、察しの良い部員諸君ならもうどういう感じの肝試しになるか分かっているかな?はい、これ1班に1つずつね」

 微笑みながら月原くんが取り出したのは懐中電灯3つ、デジタルカメラ3つ。もうこれ確定だろ。ついでに報告書も書く気満々過ぎる。
 ここで先程まで黙っていた陸部2人が訊ねた。

「班分けはいいけれど、どうやって分ける?高校にはWi-Fi無いからグループ分けアプリ落とすのはやなんだよね」
「阿弥陀でも作ると?俺今日、財布しか持っとらんよ。あ、財布じゃなくて小銭入れやった」

 そう言うと思ってたっす、と芳垣くんが不敵な笑みを浮かべた。自称愛され系は愛され系へ進化する為に必死である。
 持っていたバッグから小さな箱を取り出す。それは高校生男士が悠々と手を突っ込める、そんな箱だった。何てマメな子なのか。愛され系とかいう残念な言葉さえ無ければ本当に可愛がりたい後輩レベルである。

「へぇ、クジかぁ。うんうん、細工に余念が無いね、芳垣は。ふふ、じゃあ誰から引こうか」
「細工・・・?」

 何言ってんだ、互いが互いにそんな顔をする須藤くんと芳垣くん。そしてそんなの関係ねぇ、とばかりに早々に箱に手を突っ込んだのは清澄くんだった。自分はくじを引いておきながら、次に引く相手を指定する徹底ぶりには思わず天を仰ぐ程。

「ほれ、次は雄崎引いてみらんね?先に引いといてあれだけど、ホントはゲストから引かせた方が良かったやんね」

 もう順番とか関係無い。近場にいた人間が次から次にくじを引いていく中、須藤くんがちっとも笑っていない事に気付いた私は結局その『くじ』を最後に引いた。