夏休み企画

02.


「裏門から入るのは良いけれど、不審者みたいだって警察とか呼ばれないようにしておくれよ」
「おーう、分かっとっさ。ふふ、お前より先に着いた優越感もたまにはよか」

 続いてやって来たのは部長の月原くんと副部長の鹿目くん、そして何故か後輩の由衣ちゃんだった。月原・鹿目のコンビはともかく、その中に由衣ちゃんが混ざっているのは大変珍しい。
 良く言えば凪いだ、悪く言えばどこを見ているか分からない、そんな目をした鹿目くんは一同を見回し最早お決まりになりつつあるフレーズを口にした。

「ふむ、君達も部員だったかな。違っていたら悪いが、何せ俺は人の顔と名前を覚えるのが苦手でね」
「もう、さすが、鹿目パイセン!マジ笑うんですけどー!!」
「君はもう少し目上の人間に対する礼儀を学んだ方が良い」

 腹を抱えて笑っている由衣ちゃんを窘めた鹿目くんは小さな溜息を吐いた。成績良好なはずなのに何故か顔と名前が覚えられない彼の人名に対する記憶はおよそ1日。1日会わないだけで間違い無く名前を忘れられるし、部員だったかも忘れられる徹底ぶり。彼と会う時は大抵自己紹介から始まるのだから手に負えない。
 先輩に窘められて少しばかり落ち込んでいるかと思われた由衣ちゃんだったが、彼女のメンタルは鋼で出来ているのだろう。すでに――というか、落ち込んだ様子も無く鹿目くんに誰が誰なのかを解説している。何気に面倒見が良いところとか、愛嬌があって大変可愛らしい。

「あ、そうだ。言うのを忘れていたけれど、今日は人数の都合上でゲストが1人いるからみんな仲良くしてね」
「ゲスト?この中にはまだいないのか、月原」
「鹿目くん・・・いたらちゃんと教えるから・・・」

 あれ、と私は首を傾げた。
 ゲストとか言って部員以外の生徒が同行する事そのものは珍しくない。ただ、今回は珍しく心研部部員が全員揃う催し物なのだ。如何に小さな部活とはいえ、人数が揃えばそれなりにはなる。その中に、ゲストが来ると言うのか。もう割と大きな集団になる気がする。
 しかし、それより気になる事がある。が、その疑問については私の代わりに困惑顔をした珠代ちゃんが訊ねてくれた。

「ちょっと訊きたいのだけれど、どうして由衣は部長達と来たのかしら?」
「はいはーい!絶対に訊かれると思っていました!実は校門前で会いまして・・・あの、ほら、完全に閉まってるあの門ってちょっと堅いじゃないですかー!で、立ち往生してたら助けてくださったんですよぅ!」
「おかしいわね。私も壱花も校門を通って来たはずだけれど」
「あ、ごめんね由衣ちゃん。門空いてたら駄目かなって思って閉めちゃった」
「ちょ、壱花先輩、力強すぎ!」

 由衣ちゃんが再び笑い転げ始めたのでさっきそれとなく注意した鹿目くんが盛大な溜息を吐いた。