ドキドキ☆百物語縮小版

第6話


「よーしよし、次は私の番だね!さっきも言ったけど、部の古参として最近の話をしようかな」

 やけに元気にそう言った6番手は葉木壱花。彼女は部の中でも実話に事欠かない実力者である。

「みんなが知ってる場所がいいかな、と思って私の部屋の話をまとめてきたよ。
 来た事がある人なら知ってると思うんだけど、みんなが葉木ルームって呼んでるあの部屋は別棟にあるんだよね。別棟は本棟より先に建ってた――まあ、謂わば増築前の建物なんだよ。他のどの棟よりかなり古い造りになってる。七不思議が多いのはそのせいでもあるかな。何せ、あそこはまだ子供が少ない戦後すぐに建てられてるんだからさ。
 それで、私の部屋なんだけれど元は準備室だったのを片付けて使っているんだよね。小さいロッカーがたくさんあって、一番入り口に近い所に掃除用具入れの縦長ロッカーがあるでしょ。最初は小さいロッカー使ってたんだけど、開け閉め出来るやつだから多すぎてどこに何を入れたかすぐに忘れちゃうからだんだん使わなくなって、今はもうつ買ってないけど。
 それでね、その小さいロッカー。使ってないはずなのにたまーに勝手に開いてる事あるんだよね。ほら、私って一つの事に集中すると物音に気付かないから、すごく真剣に色塗りしてて、ふと顔を上げたらロッカー開いてる、みたいな。
 何か住んでると思うんだよね、あのロッカー。私、最初は怖かったんだけど段々馴れてきちゃって。最近ではロッカーが開いてる時は『ロッカーの上に水槽置いていいですか』とか、『最近勝手に部屋に入ってくる1年がいるんだよねー』とか大様の耳はロバの耳やるようになってきたかなあ。
 お利口さんだから相談したら悪い事起きないし。でも、勝手に入って来る奴がいるって相談したからかな?私の部屋で怪我人が出ちゃって。何か昼休みに勝手に入り込んじゃったみたいなんだけど、ガラスを踏んで足の裏を大怪我。運動部だったのに可哀相に。何で足下にガラス散らばってるのにシューズを手に持ったままロッカーに近付いたのかなあ?金目の物なんて一つも置いてないのにね。
 だからね、みんな私の部屋に私がいない時に入るならちゃんと「お邪魔します」って言わないとだめだよ。ロッカーちゃんは不法侵入を絶対に赦さないからね」

 ふっと、ろ蝋燭が消える。ぐっと室内が暗くなった。

「・・・・・」
「・・・どうしよう月原。清澄が息してない」
「まあ、上鶴くんは一番葉木ルームに行っていたからね。仕方無いね」

 色々聞きたい事はあるけれど、と珠代が肩を竦める。

「まず、何でロッカーと平気で友好関係を築いているのかって話よね。相手、無機物」
「あはは、混乱しているね、仙波さん。俺としては話が怖いってより正気の沙汰とは思えない葉木さんの行動の方が怖いかなぁ。やっぱり一番怖いのは人間だよね、うんうん」

 ちょっと待て、と鹿目が話の流れを切った。

「それは・・・運動部の生徒の方にも非があるとはいえ、部活停止、最悪退部か部屋の没収もありえたんじゃないのか?部屋の不始末は君の責任だろう、葉木」
「それと私からももう一つ。あなた、いくら恐怖耐性あるとはいえ、実物には弱いって言ってなかったかしら?」

 ああ、とちょっとだけ嗤った彼女は答えた。

「あの時は丁度、教頭先生が盲腸で入院してていなかったんだよ。あと、私は確かに幽霊とかガチでいたら怖がるタイプだけど、ロッカーちゃんは見えないからね。透明なものはクラゲだろうとガラスだろうと、私の部屋にいる『何か』だろうと心の清涼剤だから全然気にしないよ。姿さえ見えなければ、ね」