第3話
「俺、一番最初が良かったっす・・・」
三番手、芳垣光はそう言ってぐすっ、と鼻を啜った。彼の手はすでに震えている。
「じゃあ、サッカー部の部室にあるロッカーの話するっす。
うちの部活って結構部員がいるんですけど、その内の大きめのロッカーは15個しか無いんすよ。あとはコインロッカーみたいな、最低限の物しか入れられなくなってて超不便なんすよね。で、大きいロッカーは一番練習に来るはずのレギュラーで使うって事に何年か前から決まってるんですよ。でも、実際に使われてるのは14個だけ。
俺と同じ2年レギュラーに比江嶋千彰って奴がいるんすけど、そいつが勝手に使ってないロッカーに物を入れてたんですよ。その、1個だけ使われてない大きいロッカーに。あいつって2年の間じゃゲーマーで有名なんすけど、人に貸したソフトとか、逆に借りたソフトとか隠してたんだよなあ。あ、俺もたまに借りたりしてたんで、そんな訳で先輩達には黙ってたんすよ。
そうしたら先々月、朝練終わった後に千彰が言ってきたんですよ『なぁ、もう一個の方に入れてたCDどこ行ったか知らね?』って。あれは確実に俺を疑ってる目でしたよ、ホント。でも俺クラシックとか聴かないからそんなCDは知らない、つったんです。その日はそれで終わったんですけど、1週間後くらいかな、前日に千彰に借りたソフトをそのロッカーに入れて、返したってLINEしたんすよ。
それで、当日になってみたら返したソフトが無いってんで大喧嘩。ソフトって1本幾らするか知ってます?新品で5000円以上するんすよ。で、高校生にしたらそれって大金じゃないっすか。俺達があんまり煩く喧嘩するもんで、部長が割って入ってきたんすよ、さすがに。練習前だったし、土曜日だったし。
で、部長が言うには『そのロッカーは物を食べるから使用禁止にしていた。詳細を教えなかった俺達にも非はあるが、来年の入部者が減るかもしれないから他言はしないでくれ』、って事らしいんすよ。他の先輩達によると普通に『物を食べるロッカー』って呼ばれてるんですよね。つか、今までそんな話聞いたことないっつの。
そのロッカーなんすけど、このままじゃ千彰の持ち込んだ物がなくなってしまうって部長が言うんでその日のうちに物は全て撤去しましたよ。にしても、あいつロッカーに物入れすぎ。何か『これは俺が入れたものじゃない』とか言ってたっすけど、あれだけゴチャゴチャ物入れてりゃどれがどれだか分かんないっすよね」
ふっ、と蝋燭の光が消えた。
周囲が静寂に包まれる。
「いや、何か言ってくださいよ!」
「何かって・・・その、比江嶋千彰くんってのは度胸がある子だよね。ゲームなんて見つかったら即没収だよ」
「司、お前やったらロッカーの前で即没収しとるね」
珠代が溜息を吐いてこう訊ねた。
「芳垣くんは、こういう話は怖くないのね」
「まあ、迷惑ってだけっすからね。何か視たわけじゃないし」
そういえば、そう鹿目が口を開いた。彼は一番手、二番手に余計な事を聞いたせいか、自然と周囲が鎮まる。
「サッカー部の部長を名乗る・・・名前、顔共々忘れてしまったが、その部長に一度だけ訊かれた事があるな。何かお祓いとか出来るいいお札は無いか、と」
ああ、と何かを思い出したように光が手を打つ。
「そういえば、部長。日曜日が午後練習だった日の帰り、すっげぇ遅くまで残ってる事あるんすよ。で、俺は一度一緒に帰ろうと思って部室の前で待ってたんすけど、そしたら話し声が聞こえるんで先輩以外に誰かいるのか、と思ったら物を食べるロッカーの前で何かブツブツ言ってるのを見た事あるっす!」