第2話
「さぁ、2話目は俺だね。と言っても体験談なんてあまり無いけれど」
2番手、須藤司。クスクスと上品に微笑む姿はとても今から実際に体験した怖い話をする態度ではない。
「締めだったらとびきり怖い話をするところだけれど、まだ2話目だからね。軽く流す程度の小話にしようかな。
別棟、あるだろ?理科室とか、美術室とかある特別教室の棟。あそこって校舎の陰になっていてあまり陽は当たらないし、いつも薄暗いよね。ところで、その別棟の脇に1本大きな木があるだろ。あの周辺だけ盛り上がっていて小学生くらいだったら丘かな、ってくらい高低差があるよね。
あの盛り上がり、木が植えてあるから盛り上がっているわけじゃないって知ってた?あそこはね、お墓なんだ。ウサギ小屋のウサギとか、鶏とか、ああ、亀もかな。とにかく学校で飼っているあらゆる生き物が死んだ時はあそこに埋めるようになっているんだよ。
じゃあ、今の話は一度脇に置くね。
話は変わるんだけど、理科室にホルマリン漬けがあるでしょ?あと大きな亀の甲羅も飾られているじゃないか。あれって理科の先生の趣味なんだよ。俺は先週、用事があってその先生に会いに行ったんだ。勿論、理科室へ。教科連絡を聞きに行ったんだよね。そうしたら、先生が珍しく俺達のクラスがどこまで授業を進めたのかど忘れしてしまったんだ。当然、ちゃんと記録は取っているから確認してくる、って事になってそのまま俺は理科室で先生を待っていた。
5分くらい待っていたかな。昼休みだったから外は昼練の部活とかで賑やかそうだったなあ。そうしたら、その声の中にねチャッチャッチャ、って、音が聞こえてきたんだ。最初は聞き間違いか俺が何か物でも落としたのかって思ったんだけど、その音は徐々に近付いてくる。それで、教室の前くらいでその音が聞こえるなって気付いた時に、そういえば前、友達の家に行った時に犬がフローリングを歩く時の音にそっくりだって気付いたんだ。ほら、犬って爪をしまえないから爪が床に当たって音がするだろ。
で、そんな事を思い出している間に足音は気付けば教室の中から聞こえてきてた。さすがにまずいんじゃないかって思ってずっと身構えていたんだけど、その足音は俺の前を通り過ぎて、後ろの棚に向かっていったんだよ。何があるんだろうと思って追って行ったら、ほら。さっき話したホルマリン漬け。ウサギのやつの前で止まったんだよね。
ウサギって寂しいと死ぬとかいうし、仲間に会いに来たのかな。思わず泣けてきちゃったよ、主に感動で。まあ、それがウサギの足音だったのならって話だけど」
ふっ、と蝋燭の火が消える。
一瞬の間。
「あーっと、須藤くん。色々言いたい事はあるけど、1つだけ。ガッツリ恐怖体験してんのに落ち着き過ぎィ!!」
「壱花の言う通りよ。何故じっとしているの・・・?逃げればいいのに・・・」
戦々恐々としている女性陣とは裏腹に、清澄と月原は感動にハンカチまで取り出していた。
「うう・・・っ!ウサギちゃん・・・良い奴やん・・・!」
「うんうん。やっぱり動物の感動話は・・・涙腺に来るよねぇ・・・!」
ふむ、と鹿目がそれに対しこう宣った。
「話を聞いたところ、姿は見えなかったんだろう。一概にウサギだとは言えないな。上手く話を関連づけてはいるが、そもそも動物の足音なのかも微妙――」
「だーっ!先輩!もう感動話で終わらせましょうよ!俺もそれならあんま怖くないし!!」
それにしても、と須藤は言葉を紡ぐ。
「飼われているウサギは幸せなのかな?仲間に会いに来たといっても、別にお盆だったわけでもないし、単純に成仏出来ていない事になるよね。それにホルマリン漬けなんて、俺がそのウサギだったら許せないなあ。理科の先生、悪い事が起きなければいいけれど」