08.
でもさ、と葉木が明るくそう切り出す。そろそろ授業が始まるが、当然の如くズレている彼女は気にしていないようだ。
「折竹くん、親からの許しは出たんだから今後邪魔される事は無いと思うよ」
「邪魔!?俺、誰かに恋路邪魔されとったんか!?」
「邪魔って言うか、折竹くんはこうこう、こういう人だよっていうのを明らかに悪意を含んで桜ちゃんに伝える、とかかなあ」
「名誉毀損で訴えたろか!!」
「でもほら、聡。純然たる、事実、やん?」
西陵高校唯一の不良にして賽子大好き人間である電波四天王の一角、芦屋麻純。そして先程から花に水やりをしていた柏木百合子、瀬戸桜。さらに葉木壱花。何気に四天王全てが関わる一大事件だったのではないだろうか。
――けれど、今回の件で確信した。
四天王、恐らく全員が何かしら繋がりがある。もっと言えば友人関係なのではないだろうかと。
類は友を呼ぶとも言うし、彼女達が有名になってから寄り集まったのか、或いは有名になる前から一緒だったのかは不明瞭だが。
「葉木ちゃんは、芦屋さん達と仲良かねぇ。前からそうやったっけ?」
「うん。私達は最初っからずーっと仲良しだよ、誰よりもね。麻純ちゃんには意地悪な事を言ったし、今度ご機嫌取りにアイスでも奢ってあげようかな」
「ふぅん、何か、意外やね。全然喋ってるところとか見んかったし」
不服そうな顔をする葉木の背後。授業が始まったのか、教室の生徒が全員立ち上がって礼をしているのが見えた。ああ、遅刻だ。
***
上鶴清澄が仙波珠代と再会したのは放課後、彼が葉木ルームへ向かう途中だった。教室からは程良く離れ、しかし例の部屋までは少しばかり距離がある。何か、人に聞かれたくない話をするのに打って付けの場所だと言えるだろう。
自然、眼が細くなる清澄に怯えもなくただただ険しい顔を向けた珠代はまったく唐突に口を開いた。対峙する2人を見ている者は当然誰一人としていない。
「――ねぇ、上鶴くん、実はもう好きなんじゃないの?」
「なんの話ばしよっとね。仙波さん、今日は部活じゃなかと?」
話を逸らさないで、強い言葉で言われ、口を閉ざす清澄。
珠代はもう一度、強い口調でさっきと同じ言葉を、しかし少しばかり詳しく口にした。
「実はもう、壱花の事、好きでしょう?上鶴くん」
目と目が合う。
嘘は赦さない、沈黙は赦さない、黙秘は赦さない。
その意図を汲んでなお。
上鶴清澄は困ったように、楽しげに、ただし面倒臭そうに笑みを返したのみだった。