Ep5

07.


 大体それは、と再び怒りを露わにした芦屋は数歩葉木へと詰め寄る。

「お前があたしを誤解させたのがそもそもの始まりだっただろうが・・・壱花!」
「知らないよ。誤解じゃなくて、勘違い、の間違いでしょ。自分の勘違いを私のせいにしないでよ」
「こうなる事を分かってたくせに状況説明しなかった自分の失敗は棚上げか」
「分かってたけど、私だって私のライフスタイルってものがあるし。それに、麻純ちゃんLINE見ないじゃん」

 睨み合う両者。ただし本気で激昂しているのは芦屋の方で、葉木は飄々とした態度を崩さない。いつか手を挙げるんじゃないか、ハラハラしているとジョウロを片付けて来たらしい柏木百合子がちょっと、と果敢にも両者の間に割って入った。

「もう、どうしてまた喧嘩しているの?壱花、あまり麻純をからかっちゃ駄目よぉ、本気にしちゃうんだから」
「からかってなんかないよ!折角昼休みを清澄くんと過ごしてたのに!」
「お前、あたしより『清澄くん』の方が大事なのかよ!」
「友達なら空気を読もうよ麻純ちゃん!」

 そんな葉木の文句を後押しするように予鈴が鳴った。後5分で授業が始まってしまう。ふと見れば仙波珠代はそそくさと教室へ帰って行っていた。話が決着したと見て興味を失ったのは明白だ。

「どうすんねん、これ。もう教室帰ってええかな・・・」
「耐え、鈴島。俺もこれが行き着く先を見てみたい気もするわ・・・」
「俺は次の授業サボる気満々やけん、なんも問題なかね!」
「あんな、部長命令や、清澄。5限もちゃんと出なあかんで・・・」

 おい、という芦屋の声。視線をそちらへ向けると言い争いに更に鹿目が介入していた。

「騒がせてすまなかった。2組は5限に小テストがある。すまないがこのくらいで勘弁してもらえないだろうか、葉木」

 誰よりも何よりも大人だった鹿目の謝罪により、さすがの葉木も罪悪感を覚えたのか大人しく引き下がった。何はともあれ解決しはしたようだ。担任が芦屋麻純の面倒を鹿目に任せた理由がよく分かる。
 両手をスカートのポケットに突っ込み、早足で教室へ戻る鹿目の後を追っていた芦屋とふと目が合った。射殺さんばかりの視線で睨まれた気さえする。

「・・・最後まで恐ろしい顔しとったなぁ、芦屋さん」
「聡。実はあの子に何かしたんじゃなかと?振ったカノジョと親友だった、とか」
「お前は俺の事嫌いなんか?」
「純然たる事実やん?」