Ep5

06.


「ああ?何ゴチャゴチャ騒いでるんだよ」

 葉木を従えて現れた芦屋の第一声はそれだった。相変わらず凶悪な顔つきをしているせいか、美鳥と仙波が数歩後退る。これでよくも『優しい子』などという評価を出せたものだ。今にも襲い掛かってきそうじゃないか。
 壱花、と仙波が素早く手招きした。友人との再会を大袈裟に喜んだ葉木が仙波の元へ駆けていく。

「壱花、お前の知り合いかよ。目障りすぎ」
「知り合いじゃなくて友達なんだけど。ちょっと口が悪すぎるんじゃないのかな!」

 ――友達という線もある。
 鹿目の言葉が鮮やかに脳裏を過ぎった。奇しくも彼の予想は当たっていたと言えるだろう。教室から二人して出て行った時のような険悪さは欠片も感じられない。

「あーっと、君等はお友達やったんかな?」
「そうだよ、折竹くん。というか、みんなゾロゾロ出て来てどうしたの?校内ピクニック?」
「・・・いや、いっちゃんが校舎裏でボコられてるんちゃうかな、って・・・」

 はぁ?と、真顔の芦屋が眉間に皺を寄せた。

「そんな事したら停学じゃ済まないだろ、馬鹿か。ンな頭悪い事はしないよ」
「正論過ぎて逆にムカつくパターンや・・・!態度改めてからその台詞はもう一回言いや!」
「人の事を見かけで判断するからそうなるのさ。これに懲りたらお前のその態度こそ改めるべきなんじゃなぁい?」

 憎たらしい顔でクツクツと嗤う芦屋麻純は成る程、確かに美人だった。怒りがスッと引いていくような、悪く言えば激情を心に染みいる美で鎮めてしまうような、不思議な魅力を持っている。
 ――が、そんなものに動じない男子生徒が一人。

「客観的に聞いた限り、君の行動は誤解を招きやすいようだな、芦屋。態度を改めろとまでは言わないが、誤解されないよう振る舞う事も一種の世渡りだぞ」
「うわ、鹿目。お前マジであたしの事追い掛けて来たんだな。クソ真面目インテリっぽい顔してるくせに意外と足速くて焦ったわ」
「当然だ。俺の50メートルのタイムは――」
「あーあー、はいはいはい。良いって、それは。チッ、何か色々面倒になって来た。じゃ、壱花。次の授業は小テストあるしそろそろ教室帰るわ」

 手を振り、直ぐさま背を向ける芦屋。待って、とその背に制止の声を掛けた葉木壱花は次の瞬間、耳を疑うような発言をした。

「麻純ちゃん、お騒がせしましたって私の友達に謝って無いし、部室借りたお礼も百合子ちゃんに言ってない!」
「・・・・あ?」