05.
見かねたのか、或いは時間を無駄にしたくなかったのか。受動的が基本スタイルの清澄が動いた。美鳥を追い抜き、柏木百合子を見下ろす。大迫力の高身長を誇る清澄が現れても彼女は顔色一つ変えなかった。
「ちょっと中に入れてもらってよかね?」
「許可出来ないわぁ。部活の見学?それだったら、前もって言ってもらわないと」
両断。嫌悪感こそ抱いている様子は無いが、部室へ部外者を入れるつもりは微塵も無いという圧力を放っている。取り付く島も無い柏木の意思表示に美鳥が懇願するような声を上げた。
「壱花を連れて行くだけやから、何か変な事するわけでもなし・・・」
「部室に部外者を入れたくないのよぉ」
「・・・じゃあ、柏木さんが壱花を呼んでくれたらそれでもええで」
「あら、どうして?」
「どうして、て・・・芦屋麻純に絡まれとったから、友達助けに来たんやけど」
そう、と頷いてみせた柏木はしかし、持っていたジョウロで花への水やりを再開した。
「出て来るまで待っていればいいじゃない。ここは部室ではないし、花壇を荒らしたりしなければ私が何かとやかく言う事は無いわぁ」
「けど――」
「良くある事じゃない」
話にならない。というか、絶妙に会話が噛み合っていないような感覚。折竹は堪らず三人の元へ走り寄った。後ろから仙波と鹿目がぞろぞろと着いて来る。
恐い顔をした弓道部の副部長が柏木へ詰め寄った。
「あなた・・・もしかして、芦屋麻純とグルなの?暴力沙汰だなんて、さすがに学校側が黙っていないわよ」
「漫画の読み過ぎなんじゃないかしらぁ。なぁに?暴力沙汰って。それに、麻純ちゃんは優しい子なのよぉ。そんな事、きっとしないわ」
――動じない。
脅すなんて以ての外ではあるが、話を聞き出す為にはそうする他無いのだろうか。清澄の様子を伺うも、彼は園芸部の部室がある辺りを眺めているだけだ。どうにか中を覗こうとしているようだが、薄いカーテンが引かれており、よく見えない。
「あかんわ。どうする、清澄。もう勝手に入ってええやろか」
「ううん・・・俺に訊かれても・・・。こっから葉木ちゃんば呼んでみたらどうね」
「聞こえんやろうな。窓もぴっちり閉まっとる」
少し良いだろうか、と内輪会議に入ってきたのは鹿目だった。
何を考えているのか読み取れない無表情のまま、淡々と心研部の副部長は意見を吐き出す。
「少し前から考えていたんだが、葉木壱花と芦屋は実は友達だという線は無いのか?俺は一部始終を見ていないから何とも言えないが」
「友達って風じゃ無かったっさ。それに、葉木ちゃんにああいう子は合わん気がする」
「それは君の主観だけれどね。世の中、誰と誰が仲良しで誰と誰の仲が悪いかなんて、当人同士しか分からないだろうさ。特に女性は」
「せやで、清澄。俺も前の前くらいのカノジョがそういう所あったし」
「お前の血生臭い恋バナは聞きたくなか」
「ヒドッ!」
瞬間、いまだ柏木に食いついていた仙波と美鳥が揃って声を上げた。