04.
校舎裏と言えば不良の溜まり場、という扱いを受けがちだが残念な事に西陵高校には不良らしい不良はいない。そもそもがスポーツ高校なので部活に人が流れやすいからだろう。
「いないな。・・・となると、園芸部か」
そんな人っ子一人いない光景を観て鹿目が溜息を吐いた。しかし、鹿目に対し清澄は晴れやかな顔である。
「よか所やね。ここで昼寝するのも気持ちよさそうやん」
「授業はサボったらあかんで、清澄。留年したらどないするの」
「んー。ちゃんと計算してサボっとるけん大丈夫」
「そんな所でばかり頭使うなや・・・」
一瞬だけ足を止めた清澄が再び歩き出したのでそれに続く。足取りは重い。鹿目の情報が正しければ園芸部の部室付近にいるかもしれないからだ。
園芸部と言えば葉木ルームと並ぶ、二大『あまり近付かない方が良い教室』とまことしやかに囁かれている場所である。この二つは彼女達のテリトリーであり、下手に介入すれば手痛い仕打ちを受けるのは最早必然。友達でもない柏木百合子の問題に巻き込まれるのは正直に言うと恐ろしかった。
「ちょっと・・・ちょっと、いるわよ。どうするの?」
「勝手に部室の方回ったら怒られそうやな・・・壱花、来てないか訊いてみた方がええんとちゃう?」
早歩きで先を進んでいた仙波と美鳥が立ち止まってヒソヒソと話をしている。何があるのかと思えば彼女達の視線の先にはその美しい顔に満面の笑みを浮かべてジョウロを手にしている柏木百合子の姿があった。言うまでも無く花壇の植物に水をやっている。
――が、いるのは彼女だけで当然のように葉木と芦屋の姿は見えない。
しゃあない、言い放った美鳥が小走りで柏木へ近付いて行った。時々非常に肝が据わっている彼女は勢いのままに園芸部の部長へ訊ねる。
「ちょっと、訊きたい事あんねんけど・・・ここに、葉木壱花が来んかった?今捜してんねん」
はた、と手を止めた柏木は美鳥とようやく視線を合わせた。何も恐い事は無いのに、まるで威圧されているような不思議な感覚に陥る。それに気付いているのか、美鳥の顔も少しばかり引き攣っているようだった。
一拍おいて、柏木は部室を指さした。
「壱花ちゃん達なら、さっき部室を借りたいと言って横を通って行ったわぁ」
――よりにもよって、部室の中。
空気が凍り付く音をいやに鮮明に聞いた気がした。