Ep5

02.


 次はどこからアプローチをかけるか。それが問題だ。言う通り瀬戸と自分はまるで接点が無い。クラスすら違うので「同じクラスだから」という理由は使えないし、こちらから出向かなければ彼女に会う事すら出来ない。
 そもそも、たまに昼休みにお邪魔したりしているが、言葉通り邪魔ではないのだろうか。そうであるのならばやり方を変えなければならないだろう。

「うーん、なぁ、いっちゃ――」

 瀬戸桜は迷惑がっていないだろうか、その旨を訊ねようとした瞬間だった。
 ダァン、と鋭い音が響いた。それは葉木の正面から聞こえ、それと同時に教室中に音が反響したが為にクラス中の視線が集まってしまう。だが、それは気にならなかった。

「お前、ちょっと来い」

 呻る高くも低い声。それはメンバー内の誰のものでもなかった。葉木が使っていた机にその手の平を叩き付けた彼女の視線は当然の如く葉木壱花のみに注がれている。高校生にして完成された容姿の持ち主である彼女は学年どころか学校中の有名人だ。

「――芦屋麻純だ・・・」

 ヒソヒソと囁くようにクラスの人間が呟いた。電波四天王、間抜けな通り名ではあるがその一角に陣取る2組の女子生徒。それが芦屋麻純である。
 突然の事態に誰も頭が追い付かないでいると、言われるままに葉木は椅子を引いて立ち上がった。その顔には特に焦りも無いし、畏怖や恐怖も無い。ただただ、人に呼ばれたので席を立ったような気安ささえある。

「何か用事?まだお昼、食べてないんだけどな」
「あ?いいから、来いつってんだよ」

 ――「葉木ちゃん」、そう清澄が声を掛けるよりも早く芦屋麻純は葉木の腕を掴むと引き摺るようにして教室から出て行った。喧嘩をさせると男子生徒より強い、噂は噂ではなかったらしい。
 一瞬の静寂の後、ざわざわと教室に喧騒が広がる。「四天王同士が喧嘩を」「葉木さん、何かしたの?」「怖すぎ、堅気の人じゃなさそう」――言いたい放題である。

「あ、ああ・・・壱花が・・・た、助けに行かないと!」
「せやんな!え、早く追い掛けよう、珠ちゃん!」
「誰が珠ちゃんよ!」

 一番に我に返った仙波と美鳥が騒ぎ立てる。というか、すでに芦屋を追い掛けるつもり満々のようで、弁当に蓋をしていた。