Ep5

01.


 昼休み。誰もが弁当を食べたり、食堂へ行って思い思いに羽を伸ばす時間だ。
 そんな中、3年6組の教室では人目を引くような組み合わせで窓際の角に陣取っている連中がいた。否、目を惹くどころか好奇の視線を向けられている。

「みんなに集まってもらったんは他でもない、今後の話や」

 そう切り出したのは6組の生徒である鈴島美鳥である。隣にはクラスメイトである葉木壱花、折竹聡もいる。
 そんな鈴島の真向かいに座っていた仙波珠代は眉根を寄せた。手に持ったスプーンにはオムライスが乗っている。今日の弁当は昨日の残りのチキンライスを卵で包んだ、つまりはオムライスだからだ。

「今後の話も何も、ここから私達にどうしろって言うのよ。十分瀬戸さんとは『お近づき』になれたでしょう?」
「仙波さん、美人やけんモテそうなのに案外そういうの、疎いとねぇ・・・」
「何よ・・・!女子中出身なの、当然でしょ!」
「それ以前の問題さね、それ」

 5組代表、仙波珠代と上鶴清澄。
 実に摩訶不思議、特に部活間の繋がりもない為、端から見ればマジカルな組み合わせである。言うなればウサギと鷹が仲良くしているようなもの。

「清澄。その言葉、まんま瀬戸さんにも適用されるんやで・・・俺の心の傷を抉るのは止めろ」
「そりゃすまんね」
「ちなみに、1週間経ったけど桜ちゃんから折竹くんの話題は一度も聞いてないよ!」
「いっちゃんは俺の事応援する気とかあるんか?」
「応援する気はあるけど、事実は事実として受け止めなきゃ!今までの折竹くんの経歴がヌルゲー過ぎたんだよ。女の子はそんなに甘くないって現実が見れて良かったんじゃないかな」
「壱花、何だか厳しいわよ、あなた」

 仙波の言葉に壱花は微笑みを返した。何やら機嫌があまりよろしくないようである。ごほん、美鳥が盛大な咳払いを一つした途端、メンバー同士の小話が一応集結する。なかなか訓練されたメンバーだ。

「よーし、じゃあまずは外堀計画の壱花から近況報告、聞かせてもらうで!」
「近況・・・いや、本当に特に無いんだよね。ああでも、見た感じ、桜ちゃんはもう折竹くんを話をしても良い相手だとは認識してると思う」
「なら、前回の心研部の活動は無駄にならんかったんやね」
「物陰から見とったけど何を切っ掛けにして馴れ合い始めたんかよう分からんね、瀬戸さん。思った以上に聡が腑抜けやったけん、逆に安心したパターンでも来たとやろうか?」

 誰が腑抜けやねん、折竹は叫び机を叩いた。怯むこと無く清澄が呆れきった瞳を友人へと向ける。

「あんだけしといて何をまごついとっとか知らんけど、あれはヘタレ以外の何者でもなかったやん。俺でももっと上手い事やるね」
「廃墟とか割と怖いやん・・・!」

 そう、唯一の失点。折竹自身が廃墟を割と怖がった事だろう。そうでなければ気の利いた言葉の一つや二つ言えただろうに。
 が、ここで完全に清澄の味方だろうと思われた葉木が口を挟んだ。

「いやむしろ、折竹くんがパーフェクト人間じゃないって証明されたからこそ、打ち解けたのかもしれないよ。桜ちゃん、ちょっと前までは人前で話せない事がコンプレックスだったから・・・」
「コンプレックスに思ってた面影、影も形も無いやんけ・・・」
「まあ、色々・・・そりゃあもう、色々あったからね。ここに来るまで」

 しかし、葉木が言う事が本当であるのならば、確かに『完璧人間』と肩を並べて歩く度胸は瀬戸に無かっただろう。ならば、失点はむしろ好評だったと捉えるべきではないだろうか。
 それもこれも、瀬戸桜の心中を読み取れるわけではないので断定は出来ないが。