Ep4

18.


 良い雰囲気だったからか、その後、裏方の連中が出て来る事は無かった。確か司も音の鳴る花火は嫌いだったはずだから、怒らせてはいけない彼を怒らせてしまったのかもしれない。
 そのままゴールするとずっと姿を確認出来なかった仙波と鹿目が何か話していた。こちらに気付いた鹿目がひらり、と手を振る。

「どうだ、楽しかったかい?折竹・・・は、陸部の部長だったか。どうだろう、瀬戸。興味があるならうちの部に是非――」
「3年」
「ふむ。それもそうだな。確かに、今更部に入っても面倒事ばかりだろうな」
「え、何や鹿目。お前、瀬戸さんの言う事分かるんか?」
「・・・このタイミングでそう言われれば、それ以外の意味があるとは思えないが」

 こいつ、会話する気が無くても会話出来る頭の切れるタイプらしい。心なしか、少しだけ瀬戸本人も驚いているように見える。いや、一番驚いているのは折竹その人だが。
 ねぇ、と仙波が腕を組み、眉間に皺を寄せている。その手にはデジタルカメラを持っているので、彼女達は彼女達で別の活動をしていたのだろう。

「壱花達は?あーあ、今日は壱花もこっちへ来てくれると思っていたのに。まあ、楽しそうにしていたようだからあまり強くは言えなかったけれど・・・」
「いっちゃん、帰ってへんの?」
「いないわね。瀬戸さん、壱花を見なかった?」
「爆竹」
「え?爆竹・・・?」
「投げられた」
「あ・・・ああ、そうなの?壱花って、爆竹に火とか着けられる子だったかしら?」

 俄に廃墟の入り口が騒がしくなった。言うまでも無く葉木達が帰ってきたのだが、清澄はその手でライターを弄くっている。弄くり方が様になっているというか、言うなれば手慣れている、というか。
 間違い無く爆竹の犯人はこいつだろう。ライター見る目が完全にヤバイ人だし。
 しかし、部長として部員の阿呆且つ危険な遊びは即刻止めさせるべきだろう。堂々と出て来た清澄を呼び止めると、司と葉木が揃って渋い顔をした。どうして呼ばれたのかは分かっている顔である。ただし、当の本人である清澄だけはきょとんとした顔をしていたが。

「清澄・・・お前か、俺に爆竹投げたんは!」
「ああ。聡、メッチャびびってて大笑いしてしまったと、ごめんね」
「謝る所ちゃうわ!爆竹を投げた事を!謝れ!!」
「うん?音がするだけやろ、あんなん。過激だった事は悪かったっち思っとるよ?」
「あんな、全体的に投げる位置近すぎんねん!素足やったら火傷しとるであれ!」

 どうもこちらの言い分がピンと来ないらしく、清澄は相変わらず不思議そうな顔をしていた。

「火傷?人間の皮膚はあのくらいじゃ焼けんよ。半袖半ズボンで爆竹の海ば駆け抜けた俺が言うとやけん間違いなか」
「こっわ!お前どんな修羅の地で生きてきたんや、信じられんわ!!」
「爆竹投げただけでそげん怒るとは・・・いや、都会は恐かところね・・・」
「実は日本じゃなくて別の星から来たんとちゃう、清澄・・・」

 毒気が抜かれた折竹は清澄を叱るのを諦めると、そろそろ解散しようか、という声に片手を挙げて応じた。ここで簡単に帰ってしまっては最後の詰めが甘すぎるので、瀬戸の背中に声を掛ける。

「瀬戸さん、送っていくで。一緒に帰ろうや」
「南口」
「お、丁度ええ。俺もそっちや」

 何か今、凄くナチュラルに、何の疑問も無く会話出来ていたような。