Ep4

12.


 ***

 善は急げ、今週は何かと用事がある、そう言ったのは美鳥だったが言い出しっぺである彼女はこの場にはいない。
 昨日の段階では練習に行くと言っていたので、きっとそうなのだろう。
 さて、平日の放課後。持て成して貰う側の折竹聡は一番に集合場所である、学校の裏山、入り口辺りに立っていた。すでに集合時間10分前であるが誰も来ていない。ギリギリ時間厳守主義なのだろうか。

「――あら、早いのね。さすがは陸部の部長。けれど、うちの部では時間はあまり守られないわよ」
「・・・ああ、仙波さんか。どうも」

 ――気まずい相手が来た。
 仙波珠代。彼女とはクラスも違えば部活も違うのでまったく接点が無い。名前と顔を知っているくらいで、ついでに葉木の友達というくらいの情報しかない。非常に気まずいので早く誰か来てくれないだろうか。
 無言の時間が続くと思われた矢先、ふと仙波が訊ねた。

「今日の部活。本当はあなたの手伝いらしいけれど、何か事情があるの?」
「え?」

 本当に葉木はオブラートに包んで話したらしい。が、オブラートどころか肉まんの皮くらい厚みがあるせいで何のことだかまるで伝わっていないようだが。
 適当に答えて躱せば良いのだろうが、射貫くように見つめてくる視線は逃げる事を赦さない色を宿している。司には友人である以上、個人的な会話の中で今日の話をしたが、当然ながらそれは彼女に伝わっていないらしい。意外な司の口の堅さを誉めればいいのか、こういう時は適当に解説しておけと言った方が良いのか。

「瀬戸さんも来るそうね。それと関係があるのかしら?あなた、一昨日、彼女と昼食を摂っていたでしょう」
「まあ、せやな・・・詮索されたくない、やんごとない事情ってやつやねん。すまんな」
「把握したわ。うちの部、恋愛相談部とかじゃないのだけれど」
「うう・・・いやその節は本当に助かってます」
「他の連中は知らないけれど、私は黙っておくから気にしなくて良いわよ。壱花が楽しそうなら、私はそれで」
「いっちゃん、楽しそうやったん?」
「いつもは自分が助けられる側だから、逆の立場は楽しいんじゃない?」

 地雷を踏みはしたが、相談内容が彼女の『楽しみ』に沿う内容だったが為に、最近の彼女は上機嫌だったのか。嫌な事を訊かれておきながら、この楽しみよう。やはり他の生徒とは一線を画する人格の持ち主だ。
 にしても、仙波珠代。性格がキツイだの、男子に異様な程厳しいだのと聞いていたが普通に良い人だ。やはり噂など差ほどアテにならない。