Ep4

11.


「落ち込むんはええけどな、折竹。まだどこ行くか決めてへんで!」

 やけに活き活きとした顔をした美鳥は水を得た魚のようだ。そういえば、彼女も着いて来るのだろうか。

「鈴島。お前、当日は着いて来るんか?」
「そうも言ってられんねん。もうすぐ選手選考あるやろ?女子の短距離って激戦区やから、あたしは学校終わった後も練習や。あんたの恋の行く末も気になるけど、ぶっちゃけ選考会の方が重要やねん。かんにんな」
「おう、分かった。練習するんはええけど、車の前とかには飛び出すなよ。なんや、この間先生に注意されたで。陸部っぽい生徒が道路走ってて通行の邪魔やて」
「それはあたしじゃないな」

 昼休みの残り時間、15分。予鈴後の5分間も含めた数字である。少し急がなければならないだろう。計画倒れなんて事にならないように。
 しかし、心研部員2人の間では場所の目処が立っているようだった。

「あそこがよかね。俺達もよう知っとる場所やし、近いし」
「私もそこが良いと思ってたよ、清澄くん。色々トラップ仕掛けないと」

 ――不穏な台詞。
 清澄が視線に気付いたのか、やけに上機嫌な顔で概要を説明した。

「学校の裏山に廃墟があっとよ。鹿目が昔は発電所だったんじゃないか、っち言いよったね。あの辺の散策は完璧やけん、そこが良かと思うとけど、どうね?」
「情報が少なすぎて何とも言えんわ。足下が散らかっとる所は勘弁して欲しいかな」
「散らかっとらんよ。少なくとも、危ない物は」
「じゃあ、そこでいいね?ああ、折竹くん。今回は性質上、みんなに事情の説明をする事になるからそれだけは覚悟しておいてね」
「まぁ、仕方無い。無理言っとる身やしね。司以外は面白可笑しく周りに話す奴もおらんやろ」

 出来るだけオブラートに包むから、そう言った葉木の言葉ほど信用出来ないものはない。彼女も結構ずぼらな所があるからだ。
 話が終わると同時、予鈴が鳴った。一番に腰を浮かせたのは隣のクラスである清澄だ。

「お、真面目に授業出るんか?」
「次は古典やけんね。先生も黒板と授業するのが大好きやし、教室で昼寝する為に枕ば取りに行かんば」

 言うが早いか、清澄は足早に教室から出て行った。部員のとんでもない生活態度に溜息を吐きつつ、女子連中もそそくさと席へ戻ってしまったので5時間目の準備を始めた。