10.
「あ、月原くんから返事きた。人が集まらなかったらやらないでね、って」
「それだけ?」
「・・・清澄くんはさっきから何を気にしているのかな?」
尤もな葉木の質問に少しだけ黙り込んだ清澄は哀愁漂う顔でこう言った。
「月原は部活を始めて最初の頃に『個人LINEは止めてね』っち言いよったけん、怒っとるかもしれんね、と思って」
「え!?うそ、言ってたっけ!?」
「確かにこの耳で聞いたけん、間違いなかよ。でも文面見る限り、あんま気にしとらんみたいやけん、もうそれは別にいいとかもしれんね」
「い、いやいやいや!LINE嫌いならわざわざそこで怒ったりしないでしょ!次の部会の時とかにネチネチ言われるパターン来てるよこれ!!」
言いながらも葉木は続いて心研部のグループに部活の提案内容を送る。なかなかに手が早いし、彼女は確か平部員だったはずだが謎の権限を有しているように思える。否、そもそも文化部はあまり上下関係など関係無いのかもしれないが。
「何人集まったら部活成立するん?」
「今回はゲストがいるし、私と清澄くんもいるから2、3人くらいいたらやるつもりだよ。人数が多すぎても邪魔だしね」
そうか、と頷いた美鳥は葉木のスマフォを覗き込んでいる。なお、折竹が美鳥の画面を覗いた場合は容赦無く文句を言われるのでこれが男女格差というやつなのだと思う。
「なぁ、清澄。心研部っていつもこんな感じでいきなり部活したりするんか?」
「いや。今日はちょっと特例やね。いつもは月原・・・部長がどっか見つけた廃墟の探索行こうとか言い出すとけど」
「悪い事したなぁ。他の部活に迷惑掛けるつもりはなかったんやけど、すまんな」
「よかよか。どうせ最近、あまり活動もしとらんかったけん。ただ月原がこういうの許可するとは思わんかった。葉木ちゃんの謎権限って本当に実在しとったとね」
目を細めて返事待ちをしている葉木を見やる清澄はちっとも笑っていなかった。それに一抹の不安のようなものを抱えつつ、折竹はさらに踏み込んだ質問をしてみる。
「副部長は2組の鹿目やったっけ?国公立なのに副部長なんかしとってええんか?」
「鹿目は確かに出来る奴とけど、でも、どうして葉木ちゃんが副部長やらなかったのかはよう分からんね。正直、普通科以外の学科が部長系を占めてるのはあまり感心せん」
「何や、心研部も割と闇が深いな・・・」
「陸部程じゃなかけどね。そもそも、こんなふざけた名前の部がほぼ1年存続出来てるのもおかしか」
それ以降、何かを考え込むように清澄は黙り込んだ。
そういえば心研部はいつから成立したのだったか。去年の冬頃にはもうあったような、まだ無かったような。そもそも、心研部が有名になりだしたのは陸上部である司と清澄が入部したあたりからで、よく知らない自分のような人間は以前はどんな活動をしていたのかさえ分からない。
分からないと言えば、一昨年辺りの――
「えぇっとね、鹿目くんと珠代ちゃんと・・・ああ、須藤くんも参加するって。あと折竹くん、須藤くんが後で話あるから裏来いよって言ってるよ」
「うわっ・・・そう言えば司には何も言っとらんかったわ。ああ、不機嫌になっとるんやろな・・・」
ニコニコ笑顔が恐ろしい、我が儘王子こと司の顔を思い浮かべただけでゲンナリした気分になってきて折竹は盛大な溜息を吐いた。