09.
話の収拾が付かなくなりそうなのを悟り、折竹は素早く口を挟んだ。
「なぁ、いっちゃん。今の時点で俺は瀬戸さんとまるで会話でけへんのやけど、これは仲良くなれば後々改善されるもんなん?俺の慣れとかじゃなく、向こうがちゃんと話す気を持ってくれれば、会話出来るんとちゃう?」
「あー、それは大いにあり得るよ。そうだよ、桜ちゃん、たぶん折竹くんの名前すら知らないし。まずはお友達からだよね、普通。折竹くんの恋愛観が狂ってるから思いつかなかったよ!」
「狂ってるて・・・まあ、否定はせんけども・・・」
一筋の光。そうか、やはり友達くらいになってくるとある程度会話そのものは出来るようになるらしい。では補助輪として、次会う時は葉木に同行してもらうべきだろうか。5組へ行けば彼女も清澄に会えるし一石二鳥というものでは?
まだ引き攣った声を上げている清澄が指を一本立てた。自然、一同の視線が彼に集まる。
「じゃあ、まずは聡が瀬戸さんにとって無害な存在である事から証明せんばいかんね。それで、どうすると?うちの心研部にゲスト参戦して2人きりにする、とか?」
「ええけど、それじゃ心研部の活動にならんやん。却下や却下。一部活を預かるもんとして、それはお願いできんわ」
別に良いんじゃない、と清澄の意見に追随してきたのは当然、心研部の葉木だ。彼女は割と真面目に清澄の意見を検討するつもりらしい。言い出しっぺである清澄でさえ、少し驚いたように目を丸くしている。
葉木はすでにポケットからスマフォを取り出し、何やら操作していた。部長に相談しているようだ。
「ちょっと月原くんに確認取ってるから待っててね」
「部長が良いっち言うかな。月原は割と頭の堅か奴やけんねぇ・・・」
「大丈夫でしょ」
それにしても、と葉木が首を傾げた。
「何か、陸部って方言系の人多いよね。他の部にはあまりいないのに、陸部にだけは九州とか関西とかの方言使う人一杯いるし」
「うーん。外から来たあたし等が言うんもあれやけど、この周辺地帯、陸部メッチャ弱いねん」
「せやせや。でもな、弱いけど西陵は設備自体は整っとるやろ?外部生徒増えんねんで、そうなると。俺も鈴島も、清澄も選手やし」
「スポーツ推薦あっさり通って吃驚したのも今や良い思い出やんな」
どの部活にも相応の問題というものがある。例えばサッカー部は女子部員が2人しかいないので部室の用途に常に悩まされている。部室が1つしか無いからだ。卓球部男子なんかは慢性的な人手不足に悩まされているし、ハンドボール部は運動場の使用権が弱い事が悩みだ。
校内で一番大きな部である陸上部については前述した通り。折竹や美鳥が方言を一応直そうと努力した理由もそこにある。外部から来た生徒の方がどうしても強いので、選手がバラバラの方言を使っていると他校に色目で見られるからだ。「ああ、あそこは色んな県から寄せ集めた選手がいるんだな」、と。大学に入れば違うのだろうが、高校ではそういう差別的な目で見て来る者も少なくない。
「葉木ちゃん」
ふと、それまで黙り込んでいた清澄が首を傾げながら呟いた。視線の先には彼自身のスマートフォンがある。画面を見つめている彼の顔は不思議そうで、今までの一連の会話は一切聞いていなかったのがありありと分かる。
「葉木ちゃん、グループLINE使わんやったとね」
「え?うん。そりゃあだって、決まってもいない事をグループで流したらみんなが見ちゃうでしょ?」
ふぅん、と曖昧な返事をした清澄は何事か思案するように口を閉ざした。訳の分からない質問をされた葉木が今度は首を傾げている。