08.
「えーっと、それで、次は・・・ああ、タレビン。あれは普通に私がそういう容器が好きなのを思い出しただけかな。で・・・んん?『そこには座ってる人がいる』・・・?」
タレビンの解説をさらっと流した葉木はここに来てようやくその喋る口を一度閉じた。何事か悩んでいるようだが、何気一番訊きたかったのは「座っている人」発言である。これはちょっと拒否られている可能性が十二分にありえる。
「なんも思いつかんね、葉木ちゃん」
「ちょっと待ってね。今ここに当て嵌まる別の台詞が3つくらいあって、どれが正解か考えてるから。会話のフェイントってやつだね!」
「会話にフェイントって何やねん!何でフェイントかけてくんねん、マジで嫌われてるんか、俺!?」
「会話のフェイントって言葉の破壊力ヤバイわあ!笑い止まらん・・・!」
折竹が勝手に絶望している横、美鳥と清澄がケラケラと笑う。他人事なので彼等は非常に楽しそうだ。
遅れて、葉木が絶望している折竹へ精一杯のフォローをした。
「大丈夫だよ、折竹くん。嫌いも何も、たぶん桜ちゃんは折竹くんの存在自体知らなかっただろうから、嫌いとか言う以前の問題だと思うし。元気出して!」
「出せるか!傷口抉って粗塩塗り込みおってからに!」
「はぁ?聡、お前、学校の女子生徒が全部お前の事知っとるとでも思っとると?自意識過剰」
「唐突な連携プレー止めろや!あとな、清澄。女子生徒も人間やから。全部やのうて、全員て言いなさい!」
笑い転げていた美鳥が復帰。引き攣った笑みを浮かべながら、息も絶え絶えに訊ねた。
「で、答え3パターンて結局なに?」
「単純に何かしら冗談を言おうとしてホラーに走った、もうすぐその席に人が帰って来る、約束していてそろそろ席を立たないといけないから遠回しにそう言った、の3パターンかなあ。まあたぶん、2つめか3つめが濃厚だけど」
「ああ、成る程なあ。あたしには考えつかんわ、それ。ハッキリ言うたらええねん。用事あるから席立つで、って」
「まあ、それをハッキリ言えない人って一杯いるからね。仕方無いね。ただその場にいたわけじゃないから、これ以外も色々ありそうだなあ。桜ちゃんの言葉ってたまに別の意味も一緒くたにして伝えてくるから、意味が一つだけとも限らないんだよねえ・・・」
あーうん、厳しいわ、とそう言った美鳥は唐突に真剣な顔をした。彼女の切り替えの速さたるや舌を巻くものだが、昼休みも無限にあるわけではないのでそろそろ何かしらの対策を打ち出したいところである。
「分かった。会話は無理や。ハードル高すぎる。ハードルの下通り抜けられるくらいの高さあるもん」
「会話は無理・・・!」
何が面白かったのだろうか。今度は清澄が笑いだした。それも、笑い声を上げる段階を通り越して肩を振るわせ無言で笑っている状態。いや本当に何が面白かったんだ、そんなに。