07.
「はーい、桜語講座始めるよー!ところでどうして清澄くんが?」
「ヘタレ折竹の付き添い。気にせんでよかよ、葉木ちゃん」
「うぃーっす!」
静粛に、と教師感を出しているのか何なのか、椅子の上に飛び乗った葉木。今日はテンションが高い。これが清澄効果なのか別の要因があるのかは要検証というところだろう。
「それにしても陸部しかいないね・・・またこの手のアウェーか」
「す、すまんないっちゃん。じゃあ、頼んだで!俺の行く末は割と本気でお前に掛かっとる!」
「オッケー任せて!じゃあ取り敢えず、昨日は桜ちゃんと何を話したのか聞こうか」
――あれ、昨日瀬戸さんに会った事、いっちゃんに話したっけ?
疑問顔だったのだろう。思い浮かべた問い掛けに対し、葉木壱花はこの上無く的確な答えを口にした。
「よくよく考えてみたんだけど、昨日昼休み桜ちゃんと会った時に『昼休みに話し掛けてきた男子生徒がいた』って話を聞いたんだよね。それって折竹くんの事じゃん?それで、どんな話をしたの?」
瀬戸の用事は葉木と会う事だったらしい。そう言われてみれば妙に納得する。昨日は同じ時間帯、葉木もいなかったわけだし。
どんな話をしたか。全ての会話を完全に記憶しているわけではないので、覚えている断片的な事を葉木に伝える。
うん、と一つ頷いた葉木は一つ一つを解説し始めた。
「実際にその場にいたわけじゃないから訳間違ってるかもしれないけど、折竹くんが話し掛けた時の『明日は雨』発言はたぶん、『よく聞こえなかったからもう一度言って』って意味だよ」
「うん、ごめんないっちゃん。ちょっとそれ俺には理解できん理屈なんやけど、なんでかな?」
「前後の会話に相関性が無いから。いいかい、折竹くん。桜ちゃんは文系なんだよ!語彙力は私達の数倍はあると思っていいからね。たぶんフル回転し過ぎた桜ちゃんの頭は、君が何を話し掛けて来たのか聞いていなかった!そうだ、何か話をしないと!天気の話題は外さないって誰かが言ってた!そういえば明日は雨だ!・・・まで飛躍してるから」
頭を抱えたくなった。成る程、解説されてみれば声を掛けた時、瀬戸は確かに首を傾げていた。言葉の意味が理解できなかったのではなく、何を言われたのか聞いていなかったのだ。うん、こんなん分かるかい!無茶振りも良いところではないか。
へぇ、と興味深そうに相槌を打ったのは清澄だった。彼は自分をからかう為にここまでやって来たらしいがどうやら瀬戸桜の習性に興味を持ったらしい――
「葉木ちゃん、本当に瀬戸さんの言葉を理解しとっとね。感心、感心」
「やったぁぁ!清澄くんに誉められたっ!やったよ、桜ちゃん!」
違った。美鳥に言われた役割を果たしていただけだった。
隣に座っていた美鳥に小突かれて首をそちらへ向ける。
「何や癒されるやろ?せやから呼んだんや、上鶴」
「言いたい事は分かるけどなぁ・・・。清澄ってフェミニストとかいう特性持ってたっけ?というか、いっちゃんの相談内容も俺にバレてんで。お前の個人情報管理どうなっとんねん」
「背に腹は代えられん。相談者同士の協力も、たまには解決に向かうんやで?」
「せやけどなあ・・・」
一頻り喜びを露わにした葉木はしかし、そこで本来の目的を思い出したのか態とらしい咳払いを一つ。やっと話が本題に戻る気配を感じ、折竹もまた居住まいを正した。