Ep4

06.


 ***

 翌日、昼休み。
 約束の件だが、葉木は昼ご飯を買いに購買へ旅立っていた。

「――で、何でとっておきの秘策がこれやねん!」

 思わず絶叫した折竹は一人増えたメンバーを視界に入れる。美鳥に連れられてやって来たのは上鶴清澄だった。何故、わざわざ隣のクラスからゲストを連れて来た。
 今日は機嫌が良いのか穏やかに微笑んでいる唐突なゲスト。同じ陸上部とはいえ、別に彼の手は借りたくないし、そもそも自分の問題を彼が真摯に考えてくれるとは到底思えない。割と厳しいのが清澄だ。

「ほら、あまり騒がんとき、折竹。上鶴の参加理由やけど、表向きは瀬戸さんと同じクラスだからって事にしといてや」
「表向き!?それ絶対に裏のある話やろ!」
「聡。あまり騒いどったら、うるさかっち苦情のくるよ」
「うるせぇぇぇ!」

 それでな、とこの騒音をものともせず何故か得意気な顔をした彼女はこう宣った。

「本当はたんに壱花の機嫌を良くする為に呼んだんや。上鶴がいれば壱花も適当な事はせぇへんやろ」
「よう分からんとけど、葉木ちゃんの話ば聞けばよかとね?」
「せやで。なんか壱花の情緒不安定やから、あんたに全て掛かっとる!」

 ――どこまで喋ったんや・・・清澄に・・・。
 見た感じ、よく分からず連れて来られた気がするのだが、清澄は司とは違うベクトルで食えない奴だ。実は何もかも知っていた、なんてザラにあるし。油断ならない奴である。しかし、何も知らない時は何も知らない、謂わばブラックボックスのような性格もしていたりして、読み切れない。
 こちらをじっと見てくる清澄と不意に目が合った。その顔に笑みは無い。普段がぼんやりしているだけに何かを推し量るような顔をされると緊張する。ややあって、清澄はへらりと笑みを浮かべた。

「事、恋愛において人に相談する事の無かった聡が、『いっちゃん』から言語講座ねぇ。本当はどっか適当なとこで昼寝でもする予定やったけど、面白そうやね。来てよかった。今回はそもそも付き合う段階まで行けるとかね?」
「おまっ・・・愉快犯かい!くそっ・・・」

 ――コイツ何かしら根に持っとる・・・。あれは意地悪する時の顔や・・・。
 まだ講座する葉木が来ていないにも関わらずゲンナリした気分になってくる。癒し系で通っている清澄だがやはりその本質は司の方と似ているのだろう。癒し系に見えるのは、彼が話を聞いていないからボンヤリしているだけの事に気付かないド素人だけだ。
 項垂れていると最悪のタイミングで葉木が帰還した。その手にはしっかり焼きそばパンを持っている。人間の海を越え、輝かしい焼きそばパンを入手した彼女はとても満足そうだ。