04.
それで、と逸れに逸れていた話題を戻すべく美鳥が言葉を紡ぐ。先程のふざけきった空気が払拭された。
「もうあたしにはどないしようもないわ。せやから、外堀作戦で行こうと思う」
「外堀？お前、俺の事舐め過ぎや。もうそれ聞いただけで何言い出すか分かってまうやろ。で、それが通用するとも思えん」
「・・・え？瀬戸さんて、友達おらんのん？」
「分からん。俺が調べた範囲じゃ、友達と呼べる友達はおらんで。今日も昼飯食うっちゅうミッションだけなら難なく果たせたんやから」
「早かったけど、弁当は一緒に食べてきたんやな。うーん、じゃあ、部活は？」
「家研部。せやけど、家研部って人数多いやろ？ほら、帰宅部女子が取り敢えず入っとこうみたいな空気のある部やし。仲良しの特定は無理やな」
部活に力を入れている我が高校は基本的に帰宅部の生徒の方が珍しい。何かしら部に入れ、というのが学校側の方針だからだ。が、当然帰宅部もいる。再三担任や別の教師から入れと言われたり勧誘されたりしても、自分のポリシーを決して曲げない連中だ。
例えば――芦屋麻純とか。正直に言うと帰宅部の生徒の方が性格がきつかったりするマメ知識があるくらいだ。
うむ、と美鳥が物々しい声を上げた。
「詰んだな」
「マジか。もうちょっと頑張れんの？お前」
本当にこれ以上何も考えつかないのか、美鳥は沈黙を保ったままだ。仕方無い、ここからは自分一人で手探りしながら進むしかないか。
「ただいまー。どうしたの、何か難しい顔して。美鳥ちゃんとか笑っちゃうから止めなよ」
「何やねん、あたしが悩んどったら悪いんか、壱花！」
「おー、いっちゃんお帰り」
そう言えば昼休みはどこへ行っていたのだろうか。珍しく弁当も食べず消えた葉木壱花が教室へ帰還した。が、彼女には悪いが葉木にどうこう出来る話題ではないだろう。如何にも恋愛未経験感漂ってるし。
しかし、恋愛マスター事美鳥はそうは思わなかったらしい。今さっき帰って来た葉木に対して藁をも縋る思いなのか、話を持ち掛ける。
「なぁ、壱花は5組の瀬戸桜について何か知っとる？」
「・・・え？どうして？」
一瞬の間。そりゃそうだろう。同じ電波の名を冠しているとはいえ、いきなり自分と同列に並べられている生徒の話を訊かれればそんな反応にもなる。
「あんな、折竹の奴が瀬戸さんとお近づきになりたいらしいんやけど、切っ掛けが無い言うて困ってんのや」
「お前コラ、個人情報守秘義務はどこ行ったんや！俺の個人情報ベラッベラ喋っとるやんけ！！」
「じゃあ壱花だけハブれっちゅうんか！？」
「ごめんねいっちゃん！」
ハブる。その言葉に罪悪感が込み上げてしまい、思わず葉木に頭を下げた。彼女は一連のやり取りについて行けなかったのか困惑顔をしている。
「お近づきになりたい、ってからかったりしたいって事？可哀相だよそんな・・・」
「あれ、いっちゃんって俺の事そんなんする人間に見えてんの？悲しいわぁ・・・というか、いっちゃんの発想が恐いわぁ」
「じゃあ、どうして」
「何や恐いねんけど。別にふざけとるわけじゃないんやで？俺は純粋に瀬戸さんとお話がしたいんや。これぞまさしく恋っちゅーわけやんな！」
「恥ずかしげもなくそういう事言うよね、折竹くん。まあ、私、桜ちゃんの友達だけど」
――何故それを早く言わない！
いつも聞いた事にはイエスかノーで答えてくれる壱花からの思わぬフェイントに折竹は天井を仰いだ。