03.
冷静に分析していた折竹はしかし、瀬戸の視線に気付いて視線を彼女に合わせた。目と目が合う。が、やはり何を考えているのか推し量る事は不可能だった。不意に目の前の彼女は口を開く。
「用事」
「えっと、それは今から?」
「うん」
それだけ言うと瀬戸はテキパキと弁当を片付け、あっという間に教室から姿を消した。それを唖然として見送った折竹も弁当箱を片付ける。一応、これは食べ終わるのを待ってくれていたのだろうか。都合の良い妄想じゃないといいが。
やることが無くなったので、そのまま6組、自分のクラスへ撤退。今日の諸々を手伝ってくれた鈴島美鳥に礼を言いに行かなければいけないし、そもそもあと15分もすれば昼休みが終わる。
「おーう、折竹。どうやった。少しは喋れたんやろな!」
「鈴島・・・。いや、ダメダメや。会話にならん以前にそもそも同じ人類だと思われてへんかもしれんわ・・・」
「あー、やっぱ強敵やんな」
鈴島美鳥とは小学校時代からの付き合いである。ずっと互いに陸上部。スポーツ推薦を取るくせに地元の選手が弱い西陵高校は陸上をするのに打って付けの環境だった。ただ、それでも遠くから来た選手が集まるのは陸部だけなのだが。現に清澄に至っては九州出身で、当然ながら寮生だ。
最近は恋愛マスターとか呼ばれだした幼馴染みはあーあ、と奇声を上げた。
「そろそろサポートも限界やで。っかしーなあ、恋愛未経験者ならともかく、お前くらいある程度何すればええのか分かってる奴の相談は手間取る事無いんやけどなあ。やっぱり四天王強敵過ぎるわ・・・壱花もせやけど・・・」
「あ?いっちゃんからも何か相談受けてるんか?」
「まあ、個人情報やから詳しい事は言えんけどな。壱花の場合は壱花をあたしがコントロールしとるはずやのに上手くいかんわ。折竹、覚悟しとった方がええで。曰く、『告白まで持って行けない』のが今の所の四天王事情や」
――何て恐ろしいんや四天王・・・!
恋愛において、両思いで成立するケースは稀だ。というかほぼ無い。そういったケースは幼馴染みだった、とか子供の頃からの付き合いが、とかそんな事情がある男女にのみ成立しうるケースであり大概は『告白された。嫌いじゃなかったから付き合った』が始まりである。となってくると告白は第一段階。一緒にいる口実作りのようなもので、そこから如何にして両思いに持っていくのかが恋愛だと折竹は思っている。
が、それが通じないとなってくると厳しい。何故なら最初の段階で蹴躓いており、更に言うとそれを断られた時点でしつこく付きまとう事が出来なくなる。もっと言えば一緒にまったくいたくない、という意思表示をされた事に他ならないからだ。
「・・・ちなみに、告白まで行けんかった、ってのはどういう事情で・・・?」
「柏木百合子。あのお嬢様風美人さんやけど、そいつ狙いの相談を何件か受けててな。会話が成り立たん過ぎて、そもそも告白させてくれへん、って今でも奮闘しとるで。なお、半分はすでに脱落した」
「怖っ!なんやねんそれ、ムード作りが下手クソ過ぎるとかじゃなくてか!?」
「柏木さんは地雷の多い子やからね。教室入った瞬間出て行け、はもう様式美と化しとるで」
「さすが四天王・・・」
「ちな、無理矢理告白してばっさり切り捨てられとる奴もぎょーさんおるで!」
「柏木さんはちょっと高嶺の花感あるもんな。四天王マジで怖いわぁ、物理的な意味で近付き難い奴もおるし」
「芦屋麻純は話してみると案外話しやすい奴だって聞いたで。知らんけど」
「お前な、そのノリに突っ込む権利は俺には無いけどな・・・せめて、誰にいつ聞いたのかくらい言えるようになっとき・・・そのノリ、ここでは通用せえへんで」
「ホントそれな」
「いきなり都会風の返しやめーや」