02.
「というか、いっちゃんと仲良かったらなんね」
――あれ、何か食いついてきてるやん。
邪魔したな、とか適当に言って退散するつもりだったのに清澄の方からそう訊ねてきた。
「いや、同じ四天王やん?まあ、いっちゃんは割と話の通じる方ではあるけどな。全然会話の糸口無くても話し掛ける方法とか知らんかと思って」
「葉木ちゃんは変なスイッチ押さん限りは普通に会話出来るけん、俺に出来るアドバイスはなか。もうよかね、行って」
今度こそ本当に清澄は教室を出て行った。ズボンのポケットに両手を突っ込んでいると身長のせいか前屈みになる彼はぶっちゃけ関わり合いになりたくないレベルの不良にしか見えない事だけは余談として語っておこう。
「ああ、あかん。このままじゃ昼休み過ぎてまう・・・」
一人呟いた折竹はちら、と瀬戸桜が座る席を見た。すでに清澄と話し込んで5分以上経過しているが、彼女の正面に座る者はいない。という事は一人で昼食を摂るつもりだろう。これは声を掛けざるをえない!
手に持っていた弁当箱を握りしめる。「なんて話し掛けたらいいか分からない」、そんな女々しい事を言っていた彼は準備だけは万端だった。
出来るだけ目立たないように教室に入る。が、当然それは無理というものだ。
部長という役柄のせいか、とにかく自分は目立つらしい。すぐに女の子のグループから一緒に飯食わないかと声を掛けられたがやんわりと拒否。何で他クラスの男子がわざわざ隣からやって来て知らない女の子のグループと飯を食わなきゃならないのか。理解に苦しむ。
何とか一番窓際の席までたどり着いた折竹は普段、『普通の』女の子に接するようにして、まずは瀬戸の座っている机の空いている部分に弁当箱を乗せた。そうすると自然、その正体を確かめるように彼女は上を向く。
すかさず折竹は訊ねた。
「俺も一緒に食ってええかな?」
一瞬の間。なお、このすぐに食べると食いついて来ないところが大変好印象だと折竹は彼女の事を後にそう評価している。
二度、三度。瞬きした彼女は首を傾げてこう言った。
「明日は雨」
一瞬の間。
――え?え?今俺、そんな事言ったっけ?というかこれは、明日は雨だと断定してんの?それとも明日は雨なのか訊かれてんの?分からん・・・なんて答えれば正解やねんこれ。つか、ええの?これは一緒に食ってええって事なの?
いや、昔一度話した時にもこんな感じだったので覚悟はしていたが。
周囲の視線が痛い。もうここまで来たら当然、後には引けないので聞かなかった事にして折竹は適当な椅子を引き、瀬戸の正面に座った。彼女は相変わらず首を傾けてこちらを見ている――否、凝視してきている。
「あ、え、駄目、やったかな・・・?」
「タレビン、好きそう」
「は?誰が・・・?えーっと、瀬戸さんっていつも一人で飯食ってんの?」
これについては事前に調べていたのでそんな事は無いと知っているのだが、一人で食べている、と答えさえすれば明日もここへ来る口実になる。それを狙っての質問だったが、瀬戸桜はやはり電波四天王だった。
「そこ、座ってる人がいる」
「・・・えーっと、それは、俺が座っているこの席の事かな?」
「そう」
「あ、あー・・・そっか・・・」
――会話終了ッ!
とにかく話が続かない。広がらない。関西人としてあるまじき状況だがそれを突っ込むには彼女と意志の疎通が出来なさすぎる。こちらが人語で話しているとすれば、向こうは火星語。テレパシーありきの会話をしているような感じと言えばそれが一番近いだろう。とにかく、彼女の言葉は短く、小さく。必要最低限をより下回った量の単語しか使ってこない。
そして何より問題なのは恐らく、彼女にとっては自分の言葉が折竹に通じていなくても何も気にしていない、という事だろう。ハナから会話する気が無いのだ。意地悪をしているわけでも何でも無く、「通じなくたって問題はない」、そう思われている事こそが問題。