Ep4

01.


 陸上部部長。
 それが折竹聡に与えられた部での役割だ。顧問やコーチの期待通り、冷静に判断を下し、ある程度の練習メニューを組み、連絡事項を伝える。基本的に完璧主義だった為に失敗した事なんて数える程しか無い。要領が良い人間だ、と須藤司にもそう言われた事があるくらいなのできっとそうなのだろう。
 それは人間関係においても違いは無く、如何に興味が無い相手であろうと悩みは親身に相談し、友達は多く。1年の時はカノジョだっていた。ただ、半年くらいで別れてしまったが。
 そんなスーパー円滑人間である折竹は現在、自分のクラスである6組から飛び出して、隣のクラスである5組に来ていた。ちなみに現在は昼休みである。

「お前、さっきから怪しかよ。なんばしよっとね」

 独特のイントネーションで話し掛けられ、両肩が跳ねる。ぎょっとして顔を上げれば合わない視線。相手の背が高すぎるので仕方が無いものの、変な屈辱感を覚えながら顔を上げた。

「清澄・・・ちょーっと用事があんねん・・・」
「・・・それは、戸の隅っこからうちのクラスを覗いてるのと関係あっとね。俺が警察やったら職質しとるとこやけど」

 上鶴清澄。陸上部の仲間であり、よく連む相手の一人だ。クラスが別なので部活以外ではあまり顔を合わせないが休みの日は家に呼ぶくらいの仲良し度である。

「なぁ、清澄。今、話し掛けても迷惑やないやろうか」
「誰に」
「瀬戸さん」
「はぁ?知らんよ。別に何かしとるわけじゃないなら話し掛けてみればいいやん」
「けど、誰か待っとるかも分からんやろ。断られたらちょっと立ち直れへん!」
「今まで色んな女の子引っ掛けてたやん。何を今更・・・つか、お前と瀬戸さんって何か繋がりとかあったと?」

 瀬戸桜。巷では電波四天王の一角として有名な家庭科研究部所属の女子生徒だ。彼女との出会いは長くなるので省略するが、とにかく現状の目標は彼女とお近づきになる事。その為に人間のコミュニケーション手段である会話は必須だ。よって、何とかして彼女と一緒にお昼を食べるところまで漕ぎ着けたいのだが――肝心の、大義名分が、無い。
 誰かの紹介とかならまだしも、何せ彼女に友達がいるのかさえ怪しい。弁当は一人で食べていたりいつもバラバラの生徒と食べていたりと統一性が無い上、彼女は言葉が通じない。勿論、純粋な日本人、日本からさえ出た事が無さそうなのに言葉が通じない。さすがは電波四天王。

「――そんなわけで、清澄。お前ならこういう時なんつって声かけるん?」
「司にでも訊かんね。別に俺は瀬戸さんに興味あるわけじゃなかしね」
「けどお前、うちのクラスのいっちゃんと仲良しやん」
「いっちゃん・・・?」
「葉木壱花。小住くんがそう呼んでたから、俺も便乗してみたわ」

 清澄が僅かに不機嫌になってきた。あまりにもしつこく絡むのでいい加減嫌気が差してきたのだろう。誰よりも気分屋な彼の機嫌を損ねると面倒なので、そろそろ解放した方がいいかもしれない。