Ep3

05.


 何だかどっと疲れた。どうして作業以外の場面でこんなに疲れているんだ。
 しかし、本日3度目の来訪者。不躾にドアが開けられる。

「壱花せんぱーい、ちょっと用事があって来ました!お邪魔しまーす!」

 美術部――ではなく、心研部の方の後輩である兼山由衣。そして同級生であり副部長である鹿目徳仁が姿を現した。珍しい組み合わせだが、まあ、納得出来るものではある。
 由衣ちゃんは少しばかり記憶力が座礁しているが、鹿目くんはその更に上。彼は会った人間の顔と名前を1日しか記憶出来ない壊滅的記憶能力の持ち主なのだ。よって、心研部の部員に用事があったはいいがどんな顔で誰がいたのか思い出せないので、最初に出会ったであろう由衣ちゃんと行動しているに違い無い。このパターン数える程あるし。

「兼山。彼女が葉木壱花かな?」
「はい!これでやっと最後ですね。まさか暇だって理由でこんな時間まで付き合わされるとは思いませんでしたよ」
「それはすまなかった。久しぶりに部員に会ってみると・・・そうだな、忘れていたが癖の強い生徒ばかりだった」
「ちょっと!いいから用事は!?さっきから!全然進んでない!私の作業!!」

 バンバン、と机を叩く。いいから早く用件を。見て分かるだろうが急いでいる。
 ああそうだった、と鹿目くんは一枚の紙を差し出してきた。

「アンケートに答えてくれ。部活動のアンケートなのだが、部長が配るのを忘れていたらしい。人使いの荒い事だ」
「アンケートの珍回答、超面白かったんですよ壱花先輩!あーあ、先輩が暇だったら一緒に心研部員ツアーに誘ったのに!」
「ありがた迷惑ッ!!」

 溜息を吐きながらアンケートに視線を落とす。
問1 現在の部費は丁度良いですか?(除:文化部)
問2 部員数10名以下の部活への質問です。来年も最低部員数を下回らずに活動出来ると思いますか?

「・・・このアンケート、文化部に対する殺意高くない!?え、変な事を答えたら廃部にする気満々でしょこれ!」
「ああ。今年のアンケートは特に殺意が隠せていないと評判だ。さすが、葉木は3年生だな」
「人事!?や、ヤバイよこれ・・・うちの部、1年いないのに・・・!」
「先輩達が卒業しちゃったら、本当に廃部になっちゃいますね・・・」

 とっても、文化部の中でも比較的ポピュラー且つどの学校にも欠かせないものがある。美術部、吹奏楽部などの花形部活だ。名前を聞いただけで「ああ、あれね」と言えるのは大抵こちら側に入る。
 問題は心霊研究部、だとか漫画研究部、だとかの何をするのかうっすらにしか分からず、ゴールも無いような部。生物研究部はギリギリセーフだろう。生物のうんちゃらとか適当に誤魔化せそうな響きを持っている。

「ああ、雄崎くん・・・来年辺り、文化部の部室1個くらい空くかもね・・・」

 部室増やしに奔走している優しいサッカー部の部長を思って心中で合掌する。まあ、来年って事は彼はもう引退どころか卒業した後だろうが。