03.
「すまんなぁ、壱花。いつもなら放っておくんやけど、ちょっと大会前やねん。かんにんな」
清澄くんを捜しに来たらしい美鳥ちゃんはそう言って苦笑した。いや、今回ばかりは全然連れて行ってもらって構わない。というか、よく大会前にサボろうと思えるな。謎過ぎる。というか選手に選ばれておきながら大胆が過ぎるのでは。
「あー、仕方なか。いつもサボっとるけんね。たまには頑張らんば。葉木ちゃんも適度に休憩して、遅くならんうちに帰るとよ」
「保護者か!そのへんは清澄くんより絶対にしっかりしてるよ!!」
「せやで、やけど、本当あまり遅くならんうちに帰りなよ、壱花」
じゃあ、と手を振った美鳥が半ば清澄くんの背中を蹴り飛ばす勢いで部屋から出て行った。再び室内に静寂が――
「しっつれいしまーす!」
「・・・うん?」
一瞬誰がやって来たのか分からず動きを止める。間髪を入れず入って来たのはクラスメイトの小住貴夫だった。彼がここへやって来たのは実に2ヶ月ぶりである。それ程珍しいし来訪者なのだが更に驚く事にその後ろには雄崎恭平がいた。彼はサッカー部の部長だが、当然の如くほぼ面識は無い。
貴夫ちゃんの付き添い・・・?1日教室にいなかったから様子でも見に来たのだろうか。
「すまん、邪魔をする」
「あ、うん」
邪魔だと思うのなら帰ってくれないか!
切実にそう思うのだが私の事をよく知らない雄崎くんにはまるで伝わらなかった。
ともあれ、先に話を切り出したのは貴夫ちゃんの方だった。
「は〜い、いっちゃんの為に今日配られたプリント〜。数学が多かったから気を付けてね〜」
「うわ、プリント多っ!」
「先生がー何かー、俺達のクラス成績が悪かったからって〜。横暴だよね〜」
大量にあるプリントのほぼ全てが数学。しかも裸で渡された。何か封筒とかファイルとかに入れて渡してほしかった・・・。
「そういえば、貴夫ちゃん達部活は?もう結構始まってから時間経ってるみたいだけど」
「ああ、気にする事は無い。今日の運動場は大会前の陸部に譲ったから休みだ」
「あ、ああ、そう・・・えっと?雄崎くんは貴夫ちゃんの付き添い的なあれなのかな?」
「違うよ〜。恭平はね〜、別の用事で葉木ルームに来たんだよー」
――えー、何か用事あるのかなあ。ちょっと今忙しいから手短に済ませて欲しいんだけどな。
ちら、と雄崎くんの様子を伺うと気まずそうに顔を反らしている。え、気まずさを感じる用事なのだろうか。不安になってきたし、明らかに時間が掛かりそうでげんなりしてくる。
室内を変な静寂が包んだ。私は雄崎くんの用事を待っているのだが、その雄崎くんがなかなか話を始めないからである。いや、本当何の用事なんだ。
「もう恭平〜、早く用件済まさないと〜。明らかに終わってないいっちゃんの作業が本当に終わらなくなっちゃうよ〜」
「余計なお世話だよ!喧嘩売ってんのか!?」
人の部屋に押しかけておいて失礼極まりない奴である。