07.
「えーっと、それで俺の用事なんすけど・・・」
「知ってるよ。可愛いものについて訊いて回ってるんだよね」
「えっ。まあ、それはそうなんすけど・・・」
「清澄くんがさっき言ってた。芳垣くんはたまにアホな事言い出すよねって」
「ひっでぇ!つか、さっきまでいたんすか、上鶴先輩!俺終礼終わってすぐ来たんだから絶対あの人終礼サボってるでしょ!つか、そんな時間にこの部屋いるって事は葉木先輩も終礼サボってますよね!?」
「何で放課後まで先生のつまんない話を聞かなきゃいけないの?」
「ドライ!乾ききってるっす!!」
肩で息をする。本当はスケッチブックを拝見したかったが話が思わぬ方向へ転がったので、もうそれを聞いてからゆるキャラの件を訊いてみよう。全体的に話が進まないのはいつもの事だ。
いいから話をしろ。この後も暇じゃない。あと伝言ゲームやや間違ってるぞ。面倒だから指摘しないけど。
「ああ、それで可愛いと思うものねぇ・・・最近はあれだよね、クラゲを飼ってみたいかな」
「クラゲ、っすか・・・?」
「だってアイツ、ほぼ水じゃん?もうむしろ水の意志みたいな存在じゃん?だからこそ、クラゲと触れ合う事で何か分かる事があるんじゃないかな、って。変だったかな?」
「いやいやいや!先に変かどうか聞いて俺に『別に、変じゃないっすよ』って言わせる魂胆っすよねそれ!その手には乗んねーよ、変っす!変変!!」
「そっかー。だよねー」
ヤバイ、何の話してたか分からなくなってきた。もう全然可愛い関係無くなってる事にも今気付いた。深刻な脳の老朽化が進んでいる。
「面白そうな話しとるね。やっぱりここに来たか、芳垣」
ガラッとドアが開くと同時、上鶴先輩が顔を覗かせた。その手にはカロリーメ●トを持っている。購買で買ってきたのだろう。
勝手知ったる様子で入って来た先輩は手近にあった椅子に腰掛けた。位置からして話に入ってくる気満々である。この人、自分の部屋でもないのに寛ぎ過ぎじゃないだろうか。
「そういえば、芳垣。お前ば捜しとる子ば連れてきたとけど・・・」
「早く言ってくださいよ!誰なんですか!?」
「うーん、たぶん3年じゃなかね。ああでも、サッカー部とか言ってたような気はする」
「あああああ!?そういえば部活!!忘れてたっす!」
閉められた戸が勝手に開く。
「よぉ。お前部活サボって何やってんの?」
背筋が凍るような低音と、無表情。
同級生でありたった2人の2年レギュラーである片割れ。朝から盛大に俺をあしらい、そして今まで何の接触も無かった比江嶋千彰だ。
今まで起きた事件のインパクトが強すぎて部活時間中だった事をすっかり忘れていた。というか、5分で行って帰ってくるつもりだったのに30分以上も経っている。そりゃ誰か捜しに来たっておかしい事は無いだろう。
「じゃあ、先輩方。うちの芳垣がご迷惑掛けました。・・・おい、行くぞ」
遅くなってごめん、という旨を伝えようとしたらそのまま襟首を掴まれた。思わぬ馬鹿力で引き摺られる。ああ、これ今日は1日筋トレコースだ。