Ep2

05.


 どっと疲れが押し寄せて来たので購買に向かっているとこれまた見覚えのある先輩2人を発見した。そのままスルーしてしまいたかったが、どう考えたって鉢合わせするし、挨拶は大事なのでこちらから声を掛ける。

「ちわーっす。なーんか珍しい組み合わせっすね」
「ん?おう、芳垣。購買に用事でもあっと?」
「もう焼きそばパンなら売り切れてたわよ」

 上鶴清澄と仙波珠代。心研部という以外関わりが無さそうな2人が何故連んでいるのか。疑問が顔に出ていたのだろう、仙波先輩が肩を竦めた。

「私達はクラスメイトなの。この後、壱花が教室へ遊びに来るかもしれないから、上鶴くんをキープしていたのよ。彼、目を離すといなくなってしまうでしょう」
「あー、成る程。先輩と葉木先輩ってメッチャ仲良いっすよね」
「あ、当たり前じゃない!」
「あの、照れるの止めてもらっていいっすか」

 事実、心研部女子は基本的に結束力が強いので部活外でも関わりがあるのは変な話ではないだろう。ついでだ、先程先輩2人に訊いて見事玉砕した質問でもぶつけてみよう。何だか機嫌も良さそうだし。この人達なら心が折れるような事は言わないはずだ。

「あのぉ、先輩方は・・・俺と貴夫せん・・・いや、可愛いって何だと思います?」
「なんね、藪から棒に。俺にそんな事聞いてマトモな答えが返って来ると思っとると?」
「いやっ!確かにそうなんすけど、まあ、みんなに訊いてる事なんで何かしら答えてもらえたらなぁって!」

 そうねえ、と少しだけ考えた上鶴先輩は不意に手を叩いた。何かを閃いた顔をしている。

「葉木ちゃんがスケッチブックに描いとった謎のゆるキャラみたいな、それでいて世の無常を語っているようなんだけれどやっぱり何も考えて無さそうな、地球上どこを探しても見つからない感じのキャラクターがメッチャ可愛かったとよ」
「なんすかそれ!?え、え?それは1つのキャラクターの中に詰め込める要素なんすか、だいたい!!」

 だ、駄目だ。感性がバグってるこの人に可愛さはやっぱり駄目だった。大体、その謎キャラクターを生み出せる葉木先輩の精神の方がよっぽど心配である。何か疲れてるのかなあ。
 チラッ、と黙っていた仙波先輩を見てみると彼女はその手にビー玉のようなものを持っていた。けれど、そのビー玉中身粉砕してない?

「これ、弓道部の後輩に貰ったのよ。先輩が中てられるように念じながらフライパンで炒めましたって。あとついでに綺麗にニスも塗ったって言ってたわね」
「あのォ、あの、仙波先輩。その後輩さんも疲れてんじゃないっすか?フライパンでビー玉炒めるとか訳が分からないんすけど・・・」
「クラックビー玉やね」

 思わぬ言葉は上鶴先輩から発せられた。商品名を思わせるビー玉の名前だが、いったい何だと言うのか。

「まあ、あれ、説明するのがめんどかけん自分でググってくれんね」
「説明しましょうよそこは!!で、仙波先輩は結局どの辺が可愛いって言いたいんすか!?」
「え?勿論、先輩の為に健気にビー玉炒めてくれる後輩が可愛いって話しよ」
「字面がシュール!だけど今までの先輩の誰よりもマトモってのが恐ろしいっす!!」

 壱花を待たせているから、そう言って喋りたい事だけを喋った先輩達は去って行ってしまった。当然ながら収穫はほぼ無かったようなものだ。