03.
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――何もサッカー部の先輩達に俺が可愛い系後輩って事を確認しなくてもよくね?
ふとそう思い至ったのは昼休み。心研部の部会へ行く途中だった。今日は水曜日なので昼練は休みである。というか、水曜日の昼休みは業者がグランド整備に来るので練習が出来ない。従って、兼部の事を考えて部会は水曜日に行うのだ。
と言っても『昼練禁止』になっているわけではないので、どの部活も大会前は筋トレとかやってて全員が揃わない時も多々ある。更に言えば文化部を兼部している葉木先輩や兼山なんかは水曜日でもいない時は本当にいない。心研部は自由人ばかりである。
「まぁ、みんな用事なんて事はほぼ無いし、何人か先輩達いるだろ!」
「残念だったね、芳垣くん。今日は僕しかいないよ」
楽観的な言葉を口にしながらノックもせず部室へ入ると部長、月原先輩から開口一番にそう言われた。思わず目を見開くと部長はクスクスと笑った。
「え、えぇ!?何で月原先輩しかいないんすか!?鹿目先輩くらいいたっていいじゃないっすか!」
「鹿目くんは5時間目が抜き打ちテストだからね。勉強すると言っていたよ」
「抜き打ちテストするってバレバレじゃないっすか!しっかりしろよ先生!!」
「葉木さんは美術部に呼ばれて来ないし、他も部活関係でいないよ。さすがに芳垣くんだけ来たって何も出来ないし、今日は部会中止だって連絡したんだけど。見てないみたいだね」
ポケットに突っ込んだままのスマフォを見る。通知が一件。月原先輩本人の口から聞いた通り、今日の部会は中止だという旨の連絡だ。
「う、すんません・・・」
「ああ、良いんだよ。既読6の時点で見てない奴がいるなとは思っていたからね」
優しいのかそうじゃないのか。そうだ、優しいついでに彼にも可愛い系について訊いてみるのはどうだろう。確実に変な答えが返って来るだろうが、万が一という言葉もある。
「あのー、あんまり期待してないんすけど、部長にちょっと訊きたい事あって。訊いてみていいっすか?」
「君って遠慮がないよね。まあ、聞こうか」
「うっす。先輩、俺って可愛い系じゃないっすか。3年6組の小住貴夫先輩に勝てるにはどうしたらいいと思います?」
あはは、と月原先輩は明るい笑い声を上げた。若干嘲笑されているようにも感じるがきっと気のせいだろう、そうだろう。
「えーっと、小住くんはあれだね、3年の女子に人気があるサッカー部だね?結論から言えば芳垣くんには謙虚な可愛さが足りないと思うんだよ」
――何言ってんだコイツ!
謙虚な可愛さって何だ。それお前が可愛いと思う女の子のタイプじゃね?貴夫先輩にも無いぞ謙虚さ!
「あーっと、俺が思い浮かべてるのと違うっすね・・・」
「そもそも僕にそんな訳の分からない馬鹿っぽい質問をしてくる事自体が間違っているよね。国公立の先輩捕まえて聞く事がそれって」
「1組のクラスメイト巻き込み事故は止めてくださいっす!苦情言われますよ、先輩!!」
結論、やはり月原先輩はちょっと変な人だった。
めげずに次行ってみよう。