Ep2

02.


「さて、俺もそろそろ着替えるとするか」

 呟きながら入れ違いでやって来たのは恭平先輩だ。部長だからか着替えるのはいつも最後である。どうせ戸締まりをしなければならないし、自分が立っているとみんなが早く着替えるからだ、と結構前にそう言っていた。
 そんな部長を1つ飛び越えた先のロッカー。のろのろと着替えていた小住貴夫が面白いものを発見したような弾けんばかりの笑みを浮かべているのが見えた。嫌な予感しかしない。

「ねぇねぇ、光〜、さっき千彰と話してたでしょー?マスコットが何とかって〜」
「マスコット?物でも無くなったのか?」

 恭平先輩を間に挟んで会話してしまったせいか、先輩まで巻き込み事故を起こしてしまった感が否めない。
 ともあれ、貴夫先輩の言葉に俺は少しだけ曖昧な返事をした。
 あまり彼と話をしたい内容では無いのだ――何せ、貴夫先輩はサッカー部の現マスコットである。愛されフェイスというか、癖のないヒモの才能を持つ彼に母性本能を持つ女性系の先輩は骨抜きだし、男から見ても庇護欲を誘うと言うか、とにかく「人に何かをしてもらう」事に長けた人である。

「あー、貴夫先輩は最初っから持ってるような才能なんで気にしなくて良いっすよ、はい」
「何だよ〜、それ!でも光が考えてる事は分かるから、アドバイスしようかなーって思ったのにさ〜」
「いや結構っす!真似出来るようなもんなら、先輩みたいな人間でサッカー部溢れかえっちゃいますって!」
「え?お前みたいに馬鹿な事考える子って、他にもいるの〜?」
「失礼!ナチュラルに超失礼っす!!」

 天性の才能、恐るべし。殴り掛かっても文句言われないような事を言われているのにそうする気を失せさせる。
 一瞬会話が途切れた事により、会話の流れに着いて行けていなかった恭平先輩が追い付いてきた。人格者なんだけど、10年くらい前の歳月を生きている人なので仕方無い。典型的な流行に着いて行けない人なのだ。

「何だかよく分からんが、俺としてはお前達はそのままで良いと思うぞ」
「き、キター!部長のよく分かんないけど心温まるような気がしたけどやっぱり何一つ解決してない系の格言!」
「何だ、それは・・・」
「まあ、マスコットとかはどうでもいいんだけどさ〜。後5分でホームルーム始まっちゃうよー」

 貴夫先輩の一言により、俺達は無言でロッカーに物を直し始めた。なお、誰よりも支度が終わっていないのは貴夫先輩その人である。