14.
「ごめん、ちょっと我を忘れとった」
「うん・・・うん・・・良いんだけどさ、私、文化部で、清澄くん、陸上部。オッケー?」
「何で片言?まあ、それは良いとけど、もう司達ここにはおらんみたいよ」
「は?」
「集合場所に行ってみん?もう多分、みんなおるやろ」
「マジかよ・・・」
思わぬ運動にぐったりしつつスタート地点へ戻る。そこには清澄くんの予想通り、私達を置いてどこかへ消えてしまった残りのメンバーが談笑していた。
僅かな怒り。
こっちが大変な思いをしていたというのに・・・!
「あ、お帰り。楽しかったかい?」
月原くんが近づいて行く私達に一番に気付いてひらりと手を振った。眼鏡の奥の瞳は嗤っている。冷やかしだと瞬時に気付いた。
「壱花、何で汗掻いてるの?」
「走ったんだよ・・・!珠代ちゃん達、いつからここにいたの!」
「私達はさっきここへ戻って来たの。ねぇ、そうでしょう?」
「うっす」
答えた芳垣くんは取り敢えずうん、と返事をしただけにしか見えない。いいからそのスマフォを仕舞え芳垣・・・ッ!!
兎にも角にも、今回ばかりは文句の一つでも言わないと気が済まない。軽く息を吸い込み、部長へ抗議の言葉を投げつけようとした時だった。それまで黙り込んでいたラスボスが絶妙なタイミングで私の言葉を遮ったのは。
「何か怒っているのかな、葉木さん。楽しくなかった?」
「うっ・・・」
悩殺スマイル(物理)を前にあっさり尻込みしてしまう。頑張れ私・・・負けるな私・・・!!
「たっ、楽しいか楽しくないかで言えば、そりゃ楽しかったけれど・・・!これは部活動としては・・・!」
「あっはっは、よかよか。俺も楽しかったし、葉木ちゃんも怒る事ないとよ。悪いな、司。ちょっと色々トラブって混乱しとるだけやけん、あんま気にせんでね」
「何か納得しかけたけどやっぱりおかしいよね、その理論!」
実は私の気持ちをスルーした発言に抗議の声を上げたが、清澄くんが楽しそうだったので何となく毒気を抜かれてしまった。
話は終わったかい、と月原くんが訊ねる。お前部長だろ、事態の収拾しろよちゃんと!
相変わらず園児にするように手を叩いて注目を集めた部長は今までのやり取りの一体何を聞いていたのだろう。こう宣った。
「じゃあ、解決したみたいだし今日は解散にしようか。あ、結構時間も遅いしあまり一人では帰らないようにしてね」
どっと疲れを覚えた私は月原くんの言葉に項垂れたまま頷いた。