Ep1

12.


 待合室は特に何も無かった。というか、恐らくは待合室に限らずこの廃墟で何かめぼしい物が見つかる事は無いだろう。何せ、綺麗に整理されている。多少荒れてはいるが廃墟と言える程歳月が経っているようにも見えない。
 ――なんて、油断していたのがそもそもの失敗だったのだろう。少しでも緊張感を持っていればこんな渾身の凡ミスをやらかすことなど無かったのだ。

「そういえば、月原くんが夏休み明けにみんなでドキドキ☆百物語縮小版!でもやろうって言ってたんだけど、そんなに話のネタ無いよね」
「・・・・・・・・」
「ああでも、縮小版だから一人一話か二話くらいで終わらせるのかなぁ。芳垣くんとかあんなに怖がりなのにどうするんだろ・・・」
「・・・・・・・葉木ちゃん」
「うん?・・・あっ」

 がしっ、と肩を掴まれる。気のせいだろうか、その手は少しばかり震えているようにも感じた。うそうそ、やっぱりこれ震えてるわ。震度4くらいだわ。
 ここでようやく私は犯した過ちに気付いた。
 キーワード、百物語。この容易に怖い話を連想させる単語から、清澄くんが何かしらスイッチを押し込むのは最早自明の理。あまりにも今日の廃墟が温すぎたのですっかり忘れていたが、彼は割とどこでも勝手に怖がり始めるある種の才能を持った人だった。しかも、最初はわいわい大人数で入ったのに、今は2人きり。そりゃ何か怖くなっても仕方が無いというものだ。

「葉木ちゃんはあれね、俺に厳しかね・・・」
「いやうん、ホントにごめんね。すっかり忘れてたよ」
「うう、帰りたい・・・」
「さすがに早過ぎるかなぁ。あと10分くらいはこの辺をうろついておいた方が良いかも。ぶっちゃけいるのか分からない・・・えーと、あれとかあれとかより、須藤くんの方が恐いし」
「みんな司の事恐か、って言うけど俺はそうは思わんとさね。割とかわいかところあっとよ。みーんな気付かんけど」
「あ、もしかして清澄くんってマゾ?」
「なんば言いよっとね・・・」

 盛大に呆れた顔をされた。いやでも、あの須藤くんを『可愛い』と言えるあたり清澄くんもやはり常人の枠では計れない人物なのかもしれない。

「ねぇ、葉木ちゃん。本当に引き返さんでよか?逃げ帰りたい気分とけど・・・」
「意気地がないなぁ!大丈夫だって、何にもいない――」

 剥き出しの足に何かがもやもやと触れた。思わず足を止める。先程まで明るく振る舞い、恐怖を微塵も感じていなさそうだった私という相棒が顔を真っ青にした事で微かに残っていた清澄くんの余裕が消し飛ぶ。いや、焦ってるの、私。

「ど、どうしたと・・・?」
「あ、ああ、足・・・!足に・・・っ!!」

 素早くポケットからスマートフォンを取り出す。それを足に向かって照らせば、そこには黒い体躯、小指の先程の大きさをした8本足の――

「ヒッ!?く、蜘蛛ッ!!」