Ep1

09.


 ***

 時は過ぎ去って土曜日。
 午後7時半、現地に集合だが私が着いた時にはすでにみんな現地にいた。意外な展開に茫然としていると目が合った清澄くんが肩を竦める。

「あー、運動部は土曜日つったら練習あっとさ。ちょっと汗臭いかもしれんけど我慢しとってね」

 練習バンザイッ!!
 いつもいつもいつも現地集合かけると遅刻する清澄くんが時間より前に現地にいるなんて天変地異の前触れかと思ったが。成る程、練習を終えてそのまま電車に乗りここまで来たのか。忘れられがちだが須藤くんの健闘もたたえるべきだろう。
 なお、今いるメンバーは部長の月原くん、清澄くんに須藤くんの陸部コンビ、何故か袴を着ている弓道部の珠代ちゃん、練習は休みだったのか私服姿の芳垣くんだ。つまりこの間のミーティングで来ると言った部員は全員いる事になる。

「あはは、葉木さん、俺にお礼が済んでないんじゃないかな?目を離したら一瞬で消える野良猫みたいに意地汚い彼を折角連れてきたって言うのに」
「ありがたや〜ありがたや〜神様仏様須藤様〜」

 それはいいけれど、と珠代ちゃんは顔をしかめている。白と黒の袴が完全に彼女を浮かせているが、履いているのは制靴というアンバランスさ。

「いい加減、隣街なのに現地集合とか止めて欲しいわ。せめて駅前集合とかにしてよ。迷うじゃない」
「そうっすよー!俺、仙波先輩と小一時間くらいこの辺さ迷ったんすよ!」
「そうだね。次はそうしようか。まあ、隣街なんて来る機会はそうそう無いけれど」

 さて、と一つ手を叩いて雑談を終了させた月原くんは穏やかに微笑んでいる。が、この笑顔から突然の爆弾を落として来るのが彼だ。

「今から移動するけれど、まだ明るいね。どうかな、僕が例の廃墟の概要を説明しようか?というか、説明していいよね?」
「ああ、それはいいな。ただ廃墟探索するのならみんなもう慣れっこだし、たまには怪談の一つでもしてから探索するのも悪くないね」

 集合場所だったコンビニから離れつつ、即座に便乗する須藤くん。というか、月原くんも須藤くんも心臓に毛どころかチタン合金で出来ているのに今更怖い話をしたところで微塵も怖がらないのではないだろうか。
 チラリ、と鋼の心臓組から目を逸らし、他のメンバーの反応を伺う。
 目に見えて怯えているのはやはり芳垣くんだ。勘弁してくださいよー、が切実過ぎる。マジでやるんですかー、も悲壮感が漂っており本当は怪談が苦手な事がありありと分かってしまい笑いそうだ。しかし、芳垣くんの隣を歩いている珠代ちゃんは余裕の表情。おかしいな、こういうのは少しだけ怯えたような顔をするのに。最後に清澄くんの様子を見てみようとしたが、何故か彼とは目が合ってしまい軽く手を振られた。隣を歩いているので言いたい事があるのなら口に出すべきなのでは。