Ep1

06.


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 放課後。心研部から送られてきたLINEメッセージは簡潔に言うと『土曜日に探索行くから』という旨の連絡だった。
 スマートフォンの画面を消し、鞄に投げ入れる。
 ここは美術室専用部屋と呼ばれる教室だ。広さは心研部の部室より少しだけ大きいくらいで、本来の美術室はこの部屋の上にある。
 フィルターが動く音がする、たくさんのグッピーが泳いでいる大きな水槽。正方形で大きさは30センチ前後くらいだろうか。その隣にも水槽。ただし観賞魚はおらず、ただ静かに水草が揺れているのみだし、他にもある小さな水槽には水が入っているだけで生き物の姿は見られない。こういうのをテラリウムと言うらしいがよく分からなかった。
 長机に座り、瓶詰めの透明な水を見つめる。赤い瓶、青い瓶、花瓶のようなもの――多種多様な瓶の中にはどれも水が入っていた。
 ただし教室の後ろの方は危険を示す赤コーンが置かれている。そのコーンより奥には大量のガラス片が散らばっているからだ。シューズで踏もうものなら怪我は免れないだろう。
 そう、ここは私専用の部屋だ。
 学校の中に専用部屋があるなんておかしいと思うかもしれないが、美術部の顧問であり美術の教師でもある先生から直々にこの部屋を賜ったのだ。
 曰く――「これ以上美術室を散らかさないで!本当お願い!君の部屋をあげるから!」、という事らしい。本当に部屋貰えるなんて驚きだし、他の部員が嫉妬するのではと思ったが温かい目で送り出された。解せぬ。
 ――まあ、今それはどうでもいい。
 前置きが長くなったが、部室の有無とか本当どうでもいい。問題は今週の土曜日だ。今回は割と参加人数が多いので、どうやって清澄くんと2人きりになればいいと言うのか。今まで何やかんや理由を付けて一緒に行動していたが、今回ばかりは上手く行きそうにない。
 部活動なので部員である珠代ちゃん達には頼りたくない。というか、部活そのものは楽しむ気なので私の事で気を遣わせるのもあれかと思う感じ。

「あーあー」

 ぐぐっ、と背もたれに体重を掛けて伸びをした時だった。伸ばした手が何かにぶつかった。

「おっと。あれ?そんな遊んでてよかと?部活せんば駄目やん」
「き、清澄くん・・・!?」

 激しくお前が言うなと言い返したかったがその言葉は呑み込んだ。見れば彼は練習用の素っ気ない無地シャツに何かスポーツ店のロゴが入った短パンを穿いている。何でうちの陸部は練習着が雑なのか。ユニフォームっぽいの着て練習しろよ。

「どうしたの?何か用事?」
「うーん、ちょっと早めの休憩さ」
「練習するの飽きたんだね?」
「・・・別に飽きたわけじゃなかとさ。休憩したくなっただけ。何でかこの部屋、あんまり人が寄りつかんけんね!」

 そりゃそうだ。この専用部屋は葉木ルームとか運動部に呼ばれており、第一級危険区域に指定されている。巫山戯てここで隠れんぼをした野球部男士がガラス片を踏んで保健室へ搬送された事件は記憶に新しいし。