05.
***
「・・・行ったかしら」
「あの様子だともうここには戻って来ないっしょ!あの人等出し抜くの簡単過ぎ!」
「しーっ!部室棟にいたら僕達の声に気付くかもしれないだろう。大声を出さないでくれ」
部室に残った月原和幸、仙波珠代、芳垣光は再びその椅子に座り直した。珠代の眉間には深く皺が刻まれている。
「なかなか話が進まないから焦ったわ。どうするのよ、昼休み終わっちゃうじゃない」
「ごめんね・・・。でもほら、須藤くんもまだ来ていないし」
「あー、でもでも上鶴先輩、運動場まで行くって言ってなかったっすか?大丈夫?須藤先輩いないー、ってなんないっすかね」
「うーん。ならないんじゃないかな、多分。というか、葉木さん着いて行ったからそのまま教室に帰ってる可能性もあるよね」
「もう須藤くんを待っていても仕方無いわ。取り敢えず話を進めるわよ」
「――俺なら今来たよ。どう?何か面白い事になっているのかな」
うわっ、と光が驚いたような声を上げた。丁度口論のように発言が飛び交っていたからだろうか、誰も彼の存在に気付かなかったのである。
通気性の良いシャツに黒い短パン。少しばかり汗を掻いているその姿はまさに運動部のものだ。メンバーの視線に気付いたのか、須藤司は爽やかな笑みを浮かべた。
「ああ、悪いね。ちょっと走って来たんだ。陸部なんだから当然だよね?」
「それはいいけれど、もうあまり時間が無いの。疲れているかもしれないけれど、話を始めていいかしら?」
「え?早く始めればいいのに、俺の事を気遣ってくれていたのかい?あはは、まさか昼休みに疲れるまで練習するわけないだろ。俺は全然疲れてなんかいないよ」
言いながら司もまた、いつもの特等席に座った。
「それで、残ってもらった理由なんだけれどね。折角夏なんだし、夏の葉木ちゃん応援キャンペーンしようって話になってるんだ。あ、発案者は仙波さんだよ」
「おー!面白そうっすね!葉木先輩はいつも頑張ってる気するっすけど」
「そうね。不毛だわ。あんな自由人と恋愛だなんて絶対苦労するに決まってる」
「でも、応援したいんだよね。仙波さんは。ふふ、君のそういう所可愛いのに、勿体ないなあ」
「ちょっと!」
憤慨した様子で珠代が立ち上がる。地団駄を踏んだ彼女はこう言い放った。
「それ、セクハラよ!」
「うわマジギレじゃん、恐っ・・・!須藤先輩、あまりからかっちゃ駄目っすよ、ホント・・・」
あーあー、いいかな、と和幸がわざとらしく咳払いした。話そのものを聞く気はあるのか、途端静まり返る部室内。
「常套手段としては廃墟探索で2人きりにする事だよね。僕は部長権限で外待ちって言えばいいけれど、君達はどうする?」
「あからさま過ぎないかな、それ。俺はみんなで入って・・・あれ、そういえばその廃墟はどのくらいの大きさなのかな?広いのなら別々に探索しようって言えばそれで済む話だよね」
「いっそ肝試しっぽく2人1組でクジに細工するのはどうかしら?」
「肝試しには向かない場所だよ。僕としては須藤くんの案を採用したいかな」
こうして残りメンバーの昼休みは過ぎ去って行った。