12.ミーティング
「――ジャックから《ラストリゾート》を取り除く方法というものは、存在しているのでしょうか?」
一通りの答え合わせを終えたイアンは淡々とそう訊ねた。そこに感情の色は無く、ただただ不安を掻き立てる。
ルイスはその問いに対しはっきりと首を横に振った。
「現状では思い付かない。だが、ルーファスの様子からして探せば簡単にその方法とやらも見つかりはするはずだ」
探そうと思えば探せる。即ち、方法は無いから、という理由は一切通用しなくなった訳だ。
それまで黙っていたジャックは意を決して口を開く。このまま黙っていれば、そのまま《ラストリゾート》を抜かれて塵へと還される未来しか見えなかったからだ。イアンには悪いが、まだ死にたくは無い。
「イアン! 俺は……!」
主張する為に上げた声は他ならないイアンによって遮られた。黙れ、と言わんばかりに向けられた手の平。反射的に言葉を呑込んでしまう。
「今後の方針ですが。ジャックの持っている私の杯に関しては、そのままにしておきます。取り除く方法も無い事ですし。それに、今少し考えて導き出せる答えでもないでしょう。気長に待つ事にします、今後どうするのかについては」
――すぐには解体されずに済みそうだ。
その事実にホッと胸をなで下ろす。この間に何とかイアンを説得する、または彼女の《ラストリゾート》に変わる原動力を得る事が出来ればまだ生きていられるはずだ。
案の定、ブルーノに関しても自分の事のように安堵の溜息を吐いている。前々から思っていたが、非常に良い奴だ。
ただ――それでも1つ気に掛かる事がある。
「なあ。俺にとってはメリットしかない話だから、あまり突きたくは無いが……。イアン、あんた俺が死んだら道連れなんだぞ。良いのか?」
「殊勝な事を聞いてきますね。そのまま触れないつもりかと思っていました」
「まあ、あんたとも知らない仲とは言えない付き合いになって来たからな。俺の不手際でイアンまで死にました、じゃ寝覚めが悪いだろ」
「その場合ですと我々は揃って明日の日の目を見る事は無くなってしまう訳ですが。それに関してはスリルがあって面白いのではないですか? 当然、貴方には生存する義務がありますので無茶ばかりされても困りますが」
ルイスが不意に声を掛けて来た。
「ところで、私には全く理解が出来ないが――ルーファスはお前の事を必要としているようだ、イアン。私の方でも独自に調べはするが、十分に注意するといい」
「私に対して寛容ですね」
「当然だ。どういった経緯であれ――お前は私の姪なのだから」
理解出来ない、そう言いたげに目を細めたイアンはしかし、それ以上ルイスに対して何事かを言及するつもりは無いようだった。
話は終わったとばかりに踵を返すその人物を見送る。
「おう、次の目的地が決まったな。イアン」
その背を見送ったブルーノが力強くそう言う。話を振られたイアンもまた、浅く頷いた。ブルーノ程乗り気ではないようだ。
「――次の目的地は帝国内部、帝都になりますね」
「は!? わざわざ帝国に乗り込むって言うのか?」
「ええ。イーデン宰相とは切っても切れぬ仲。それに、《旧き者》というのは気が長いものです。私達を延々と追って来かねません。こちらから会いに行った方が早いと言う物でしょう」
「それに俺のラストリゾート・レプリカの件も解決してねぇからな」
理屈は分かったが、ここには居ない2人が納得するだろうか。否、リカルデは付き合ってくれる。しかしチェスターはここで離脱してしまうかもしれない。
「……何にせよ、一度集まって話し合おうぜ」
色々と面倒臭くなってきた展開に、ジャックは深く溜息を吐いた。問題だけがどんどん積み重なっていって、解決の糸口が欠片も見えないのが胃に痛みを与えているのだと思われる。