第6話

05.今後の予定


 そんな思考を遮るように、ふわりと雲のような明確な形の無い何かが通り過ぎていった。

「何だコイツ」

 例えるならば、鈍い金色の雲。不定形なのか、ふわふわと形を変え、動きを変えながらただ漂っている。酷く不安な気持ちになってくるような謎の生物だ。ここにいるという事は、召喚獣代わりの魔物なのだろうか。
 ほとんど独り言に近かった呟きにイアンが答えた。

「分かりません。最初からここに棲み着いていたようですね」
「追い出したりしないのか?」
「害はありませんから。それに、あまり触りたくないのですよ。貴方には、それの中に何が見えますか?」
「何が……?」

 ゆっくりと漂う金の雲を見つめる。それは身体の中心に何かを持っていた。
 ――金色の杯。中には夜空のような濃紺色の液体が満ち満ちている。

「金色の杯だな」
「そうですか。私にもそう見えます。彼の核、と言うべき部分なのかもしれませんね」

 眺めているとだんだん、よく無い方向への不思議な夢心地を覚える。頭を振っていると、イアンがぽつりと呟いた。

「昼食でしたね。出ましょうか、ここから」

 ***

 庭から出た後、リカルデに持たせていた移動用術式の片割れを発動させる。

「ふわっ!? い、イアン殿! 場所を考えてくれ、場所を!」

 唐突に現れた自分達に、リカルデが驚いたような声を上げる。場所と言われたので周辺を見回してみると、どうやら店の中のようだった。美味しそうなにおいが充満している。
 おや、とイアンが僅かに口角を釣り上げた。

「我々を置いて、優雅に昼食ですか?」
「お前等を待ってたら何時になるか分からないだろ」

 リカルデと行動を共にしていたブルーノがそう言って肩を竦めた。計らずとも、全員集合した事になる。
 ちゃっかり空いている席に着いたイアンは早々に店員を捕まえ、食事の注文を始めていた。ジャックもまた、それに便乗する。

 落ち着いたのを見計らい、ブルーノが問い掛けてきた。

「で、お前等は何をしに館へ行ってたんだ?」
「ええ。範囲結界を作動させている、メイヴィスの遺物を見物しに行っていました。見事な物でしたよ」
「完全に趣味の観光じゃねえか。ジャック、何でお前着いていったんだよ。暇だっただろ」

 ――確かに。何で俺は着いていったんだっけ。
 水を飲みながら、少し前の出来事を思い返す。しかし、何故同行したのかについての答えは得られなかった。
 ちら、とイアンを見やる。彼女もこちらを見ていたので、バッチリと目が合ってしまった。ついでに彼女がブルーノへの問いに答える。

「いつも着いて来るので。今日も来るのかと。それに、ジャックには説明すべき事もありましたし」
「説明? まあ、何でもいいか。それで、今後の話だが。シルベリアに行くんだったよな?」

 シルベリアへは、と既に昼食を終えたリカルデが時計を見ながら呟く。

「この港からだと5時間で着くな。陸続きだから、実際は歩きで行った方が危険も少なくて良いと思うが……。疲れているし、やはり船かな」

 計画性はある方のイアン。そんな彼女はしかし、リカルデの提案と同時にやって来た料理に目を奪われているようで、「良いんじゃないですか」という適当極まり無い答えを口にした。