「樒と青桐の行方を知らんか?姿が見えないんだ」
ふむ、と反応したのは的場実栗。やや考えるような動作をした後、最初の問いに答える。
「先程、食料運搬の列に加わっていましたよ。今頃、外かもしれませんね」
俺も外で見たよ、と古小路山査子が追随する。その顔にはにこやかな笑顔を浮かべており、相も変わらず胡散臭い男であった。
「樒殿は運搬係じゃなかった気がするんだけどなあ。彼女に何か用かい、酸塊」
「ああ。いや、青桐の居場所を知りたかったのだが、どちらも行方不明でな。一緒にいるだろうか?」
「十中八九そうだろうさ」
「お前、外へ出て二人がどこへ行ったのか割り出せないのか?」
はらはらと芥菜は事の行方を見守る。『樒が青桐を誘拐した』という構図にこそなっていないが、現実とは辛くも恐ろしいものだ。まだ樒が皇族誘拐事件を起こしていないとは限らない。
――が、ここで思わぬ伏兵が登場した。
「まだ宴が始まるまで時間があります。酸塊殿、二人の所在を突き止めるのは、些か野暮というものでは?我等が主は仕事を終わらせて出て行ったのです、僕達がそれを捜すのはお節介というものでしょう」
「おや、随分な言い草だね、実栗殿。こんな大事な日に抜けだそうとするのがそもそも悪いというのに。皇族だという意識があるのかな、青桐殿には。そんな彼を連れ出す樒殿もまた、手が悪い猫のようだよ」
主人そっちのけで火花を散らせる二人。どうしてこうも仲が悪いのに一緒にいたのか甚だ疑問である。
堪らず、芥菜は止めに入った。喧嘩の仲裁は高以良領へ行ってから格段に上手くなったと言って過言ではないだろう。
「言っている場合では無いだろう。二人揃って誘拐されたという線も捨てきれない。早急に探し出すべきだ。だから、ちょっと黙っていてくれないか、実栗」
「ふん、あの方が誘拐などというヘマやらかすわけがないだろう。どうも、嫌な予感がするな」
そんな実栗の物騒な言葉を背に、再びにこやかに微笑んだ山査子が酸塊の指示通りに樒の居場所を割り出してみせる。
「青桐殿は城下町についてあまり詳しく無い。ならば、外へ出て樒殿の指示に従っている可能性が高いだろう。だが、今日は大宴会。お酒好きな青桐殿の事だ、きっと酒が飲みたいと言っているに違い無いね。これらから導き出せる答えは一つ。樒殿がよく行く居酒屋に二人で入り浸っている、って、ところかな」
さぁ、芥菜殿。貴方の出番だと、山査子が薄く嗤う。
「樒殿行きつけのお店はどこなのかな?」