6.

 本郷酸塊率いる家臣達が捜しているとも知らず、あっさり居酒屋を後にした小宮山樒と本郷青桐。入り浸る、と言う程長居しなかったおかげか今のところは追っ手達と邂逅をはたしていない。
 もちろん、城へ帰るのだ。青桐の指示である。なんでも、はっちゃけるだけはっちゃけたら途端に罪悪感に苛まれたらしく、そろそろ帰ろうと言い出したのである。
 樒はそれでも構わなかった。というより、貴重な時間を自分と過ごしてくれた嬉しさでどうでも構わなかった。

「悪かったな、付き合わせてしまって」
「いえ、問題ありません。今日の分の仕事は終わらせて来ましたから」
「急かしてしまったようだ」
「そんな事無いですって」

 酷く暗い顔をしている青桐は自嘲気味に笑った。彼のこういう顔はあまり好きになれない。

「本当は解っていたんだ。兄上の傍にいると、私の至らなさを思い知らされるようで、な。この自由な時間は楽しかった、それは本当なんだ。そうなんだが、遊んでいては、いけない気がして」
「そりゃそうでしょうよ」

 やっぱり私なんて、とどんどん暗い方向へ話を進めて行く青桐。これだけを見ていると彼はとても自分に自信が無い人間に思えるが、彼がこういう状況になるのは長男絡みで何かあった時だけだ。
 ついでに、樒が三男のこの言葉を聞いたのはおおよそ5度目である。

「落ち着いてください。私は完璧過ぎてちょっと人間味の無い酸塊殿より、青桐殿が好きですから」

 というか貴方が好きです。という意図が伝わらないかと念じてみる。が、パッと顔を輝かせた彼の表情は純情そのものだった。言葉をそのままの意味で捉えたような感じ。

「そうか・・・そうか、そう言ってくれるのは樒だけだ」
「他の人に言われてたら大事ですよ」
「え?」

 いや何でもないですよ、と苦笑。
 瞬間、そんな樒の目に写ってはいけないものが写った。

「樒、青桐!無事だったか、捜したんだぞ!!」

 大手を振る長男――本郷酸塊。何故か安堵したような表情を浮かべているが、その意味はよく分からなかった。三男の顔が曇ったのはこの際、見ないふり。折角復活していたのに何てことしてくれるんだ。
 高以良の仲間達に同盟領の主――実に予想外の組み合わせである。

「さぁ、帰るぞ!宴が始まる。樒、お前の任命祝いでもある、主役がいなければ始まらんだろう?」

 ぐっ、と酸塊から腕を引かれた。彼は父親たる熊笹に似て人の話を聞かないところと強引なとことがあるのでそれとなくその腕を引き剥がした。
 その瞬間、酸塊が非常に微妙な顔をしたのを見逃したが。