4.

 会場内の整備が担当であった篠塚芥菜が異変に気付いたのは本郷酸塊に声を掛けられてからだった。今日、彼と会話するのは二度目である。

「何度も悪いな、芥菜。樒を見なかったか?」
「樒殿ですか?少し前は青桐殿を捜していたじゃないですか、酸塊殿」
「お前の言う通り、もう一度樒に確認を取ろうと思ったのだが、肝心の樒の姿が見当たらないんだ」

 一度目は本郷青桐の所在について問われた。
 持ち場を離れられなかった芥菜はそんな酸塊に「樒の後を追っていれば、最終的には青桐のもとへたどり着く」と教えたのである。
 そうして、現在。
 青桐はおろか、樒さえ見失ったと途方に暮れる次期皇帝の姿がそこにある。

「では酸塊殿。貴方様が樒殿を最後に見たのは、どこですか?」
「食糧運搬の持ち場だったな。商人達に食べ物を運ばせていたようだったぞ」
「・・・え?」
「え?」

 さっ、と顔から血の気が引く音を聞いた。
 震える声を押さえつけ、絞り出すように言う。

「樒殿は・・・食糧運搬の担当ではありませんよ」
「何?」
「・・・青桐殿もいらっしゃらないのですよね?」
「ああ、見当たらないな」

 とうとう領主が国主の息子を誘拐――
 そんな穏やかではない光景が脳裏を過る。あながちあり得ない話ではないのが余計に芥菜の恐怖を煽った。
 どうにか長男に気付かれぬよう、事を穏便に済ませる為にも、早く樒を見つけ出さなければ。

「さ、捜しましょう。酸塊殿!早急に!」
「そうだな!何か、事件に巻き込まれているのかもしれん!」

 ――いや、事件の加害者かもしれない!
 心中で絶叫し、何か手掛かりを持っていそうな人物を捜す。

「む。山査子、と・・・実栗がいるな。奴等は情報に敏い。何か知っているだろう、行くぞ、芥菜」
「はい!」

 古小路山査子と的場実栗。それは実に珍しい取り合わせだったが、今はそれどころじゃなかった。あまり関わりたくない人物達であるが、そうも言っていられないので黙って酸塊の後に続いた。