3.

「まぁさすがにお前一人じゃ荷が重いだろうからな。何人か連れて行っていいぞ。候補がいないのならば、俺が手配しよう」

 それはつまり、実質上仲間を連れて行けという事だった。
 領主というのは割と複雑な職業で、常に内輪揉めの渦中にいる職でもある。例えば、領が狭すぎると考えたどこぞの誰かは内乱によって土地を獲得した。
 例えば隣の国が攻めて来た時、一番に対応を迫られる。
 過酷であると同時に争いの日々へ身を投じる事となるだろう。そうなった場合、文官仕事が出来る人間ばかりを連れていると、その争いに初っ端から負けてしまう事になる。負けるという事は、宮中へ帰る計画が遅れるという事。負けて帰るなんてそんなの赦さない。
 だからここは『文武両道』な人間を選択するのが正解だ。最悪、二人揃えて片方は武、片方は文でも可。

「おー、悩め悩め。決まったら報告しろ、樒」
「承知致しました」

 ――そもそも、高以良まで着いて来てくれる人物がどれだけいるのか。
 一人友人というか知人の顔がちらついたが、彼が宮中を離れると言うかどうかは甚だ疑問である。


 ***


 自室へ帰ると人が待っていた。何の予定も無いはずだったのだが――

「どうも、樒殿。勝手にお邪魔してすいません」

 まさに思い描いていた一人目がそこにいた。彼の名前は篠塚芥菜。旧知の仲であり、同時に現在は上司と部下という関係でもある。本来ならば階級は彼の方が上であるはずだが、樒と芥菜の関係性は一般論から真逆の位置にあった。

「えっと・・・?どうしたの、芥菜。私ちょっと今忙しいっていうか、色々やらなきゃいけない事があるんだけどな」
「お時間は取らせません。高以良へ行くそうですね、私も連れて行ってください」
「ねぇそれどこ情報?情報回るの早くない!?」
「お気になさらず。文官の情報網を嘗めないでください」

 何だか恐い事実を知ってしまった気がする。
 ――だが、これで一人目を獲得した。彼はまさに文武両道な人間。人材として不足は無いどころか、余りある人物である。正直、飼い殺してしまいそうで恐い。手に入れた札が強すぎて逆に使えない現象。

「さぁ、この私を登用してください、樒殿」
「うんうん・・・よろしくおねがいシマス。退屈かもしれないけど、我慢してください・・・」
「いや貴方がいて私が退屈する事は無いでしょう」
「その言葉に言い知れない棘がある気がするのは私の心が荒んでいるからかな・・・」

 ――まあ、こいつ一人いればどうとでもなるか。
 心中でそんな事を考えながら、最初は二人でも問題無いだろうと早くも樒は妥協案をまとめていた。