創作屋さんにお題50

10:雪国を熱唱しろ


 とある遠征で永久凍土と名高い山を登る事になった。定期的に雪が降り、山を白く染めているそこの雪はさらさらとしていて柔らかい。人が踏み入る地域ではない事を物語っている。

「寒いなぁ・・・馬鹿じゃないのか、この寒さ・・・」

 レックスが震えながら白い吐息を吐き出した。あら、とドルチェが微笑んだ。彼女は高そうなコートに身を包んでいるし、そもそも寒さには強い方である。

「そんなに寒いかしら?新雪を踏むのって好きだわ。うふふ、あたし達の足跡が可愛く見えるわね」
「いやどうでもいい、寒い」
「俺のコートも着るか?」

 そう言って薄手のコートを差し出したのはギルバードである。彼はこの極寒の中、かなりの薄着だ。獣人とは言え今は毛皮の無い人の姿をしているのだから寒いんじゃないだろうか。
 ちら、とギルバードの様子を伺ったレックスは力無くその頭を横に振った。

「お前を見ている方が寒いわ・・・着ていろ、そのコート。せめて寒い場所にいる格好をしてはくれないか・・・」
「ならいいんだが」

 ギルバードはそのコートを着ること無く肩に掛けた。いやだから、見た目が寒々しいから着てろと言ったのが通じなかったのか。レックスは小さく溜息を吐いた。

「あ!そうよ、レックス。あなた火でも焚いて身体を温めればいいんじゃないかしら?」
「それだ!」

 翳した手にバスケットボール程の火球が出現する。温かい。
 が、今度は隣を歩いていたギルバードが顔をしかめた。

「止めろ暑い」
「暑い!?正気かギル!」
「これだけ歩いているんだ。もう身体は温まっているし、何より雪の降る場所で火など無粋だ」
「無粋!?お前そういう言葉知ってたんだな!」

 なお、ギルバードに雪玉をぶつけられて火球は呆気なく消滅した。さらに雪を頭から被る事となったレックスは一層震える事となった。