08:地獄を見ろ
※若干07の続き?
待機からの長期任務。帰るのは明後日くらいになりそうだ。
そんな任務だからこそ士気でも下がっていたのだろうか。
「うわー、膝擦り剥いたッスぅ!!」
「えぇ、正気か・・・?何で運動神経の良い獣人が転んで怪我するんだ」
カイルが大袈裟な声を上げた。驚いたサイラスが戦闘を任せカイルの傍に駆け寄ったが思った以上に下らない理由だったようでその額に青筋を浮かべている。
「数が多いので大した事が無いのなら早く復帰してもらえませんか」
水辺ではないせいかあまり前へ出たがらないイーヴァが淡々とそう呟いた。彼女にカイルを気遣う様子は欠片も見られない。当然だ。
「それは良いッスけど、危ないから余所見しない方がいいんじゃないッスか?」
「分かっています」
身軽に晶獣の一撃を躱すイーヴァ。真剣に相手をしているようにも見えないが、同時に油断しているようにも見えない。正直テンションがはっきり見て取れるカイルよりイーヴァの方が気に掛かるし、手も掛かる。
「もういい、どうせ長い移動で疲れているんだろう?おじいちゃんが一掃してやろう!」
「そうやってすぐに源身に戻るの、止めた方がいいんじゃ・・・。誰が見ているのかも分からないのに」
サイラスのぼやきは一瞬で巨大なドラゴンの姿に変わったレックスが吐き出した炎の燃え盛る音で掻き消えた。凄まじい熱量にイーヴァがほんの少しだけ顔を歪め、カイル達がいる場所にまで下がる。
ごうっ、と獣の咆吼にも聞こえるそれが輝く結晶の獣を呑み込んだ。