03:文庫本をトイレで読む
会議室での待機命令が出てから数時間が経った。一向に任務の話は来ないし、そもそも待機命令間違いじゃないかってくらい放置されている。隊長・レックスはすでに飽きたのか微かな寝息を立て転た寝を楽しんでいるようだった。
はぁ、とカイルは人知れず溜息を吐く。最初はレックスとわいわい遊んでいたのだが、それも初期段階で煩いと注意され、ギルバードは――
「あれ?ギルさん遅くね?どこ行ったんだ・・・?」
そういえば1時間くらい前にトイレ、と一言だけ告げてそれ以降見ていない。勤勉な彼が仕事をすっぽかすとも思えないし何かあったのだろうか。
「お、起きて下さいッス、レックスさん!!」
何か起きているのかもしれない、自然とそんな考えへ至り、気持ちよさそうに眠っているレックスを全力で揺する。ちょっと首があり得ないくらい揺れているがそんな事気にしてる場合じゃない。
うがっ、と変な声を上げたレックスがのろのろと顔を上げた。あれだけ乱暴に起こされていたはずだが、怒りの表情ではなく寝惚け眼である。この人待機時間にどんだけ全力で眠ってたんだ。
「うん・・・?何だ何だ、どうした孫よ」
「あ、オレ孫じゃねぇッス。つか、それどころじゃないんスよ!事件ッス!一大事ッスぅ!!」
「何ぞ、面白い事でも起こったか!?」
「ちっとも面白くないッスよ!ギルさんが!いなくなったッス!!」
そうなの?と、レックスは首を傾げた。3人で使うには広すぎる会議室には自分達2人しかいない。ぐぐっ、と背伸びした隊長の目は少しばかり覚めたらしい。
「いつからいないんだ?」
「1時間くらい前ッス!トイレ、つってその後から!!」
「・・・じゃあ、トイレじゃないのか?」
「倒れてるかもしれないでしょ!」
おお、と手を打つ隊長。何故「お前天才だな!」、みたいな顔をしているのか理解に苦しむ。
「うむうむ!ならば様子を見に行ってみようか。ドルチェならまだしも、ヤツが仕事をサボるとも思えん」
「でしょ!?よし、まずはトイレ確認しに行くッス!!」
***
「よーし、ちょっとまずは声掛けてみるッス!」
パッと見た感じ、トイレ内に人は立っていなかった。が、個室にいる可能性もあるので大声を上げる。
「ギルさーん、いるッスかー!!」
「ああ、どうした?」
――一番奥の個室から、すぐに出て来た。
ぎょっとして一瞬言葉を失う。しかもその手には一冊の本。これ明らかにトイレで本読んでただろ、という布陣だ。
あまりの事態に絶句していると空気を読まないレックスが事の詳細を告げた。
「うむ。お前がいないとカイルがキャンキャン煩くてな、捜しに来た。大事ないようで良かったぞ」
「・・・?何故そんな大事に・・・?」
「お前、トイレへ行くと言ってから1時間経っているらしいぞ」
「何・・・だと・・・!?」
1時間はさすがのギルバードにも予想外だったらしい。目を見開いて驚きを表している。ややあって自分の失態に気付いたらしい彼は深い溜息を吐いた。
「すまん。いや、すぐ戻るつもりだったんだ。・・・それで、捜しに来たという事は任務か?」
「いいや?相も変わらず待機命令のままだ」
何で放って置いてくれなかった、とやはりギルバードは項垂れた。知らないし、本読みたいなら待機所で読めばいいものを。