3-12
――のも束の間。
イーヴァの渾身のボケにツッコもうとしていたドルチェはその軽口をピタリと止めた。自然に流れているものとは違う、強烈な魔力の流れ。
「待って、何か来るわよ!」
自分もよく使う術式だ。少し離れた場所に移動する魔術。
ぐにゃり、と顔を向けた先の空間が歪む。まるで縮小するように背景が揺らぎ、次の瞬間には少女が立っていた。否、多分中身は少女ではないのだがそれでも外見は少女だったのだ。
「・・・お知り合いですか?」
「知らないわよ、こんな子!」
「俺も知らないな・・・」
突如現れた少女は微笑んでいるのかも分からない曖昧な表情のままに周囲を見回すとゆっくり口を開いた。
「やはりエルフと言えど、純血種ともなればそこそこ強いものですね」
「・・・飼い主かしら?」
いいえ、と少女は首を振った。と同時に確信する。こいつは人間じゃない。彼女はは恐らく同族、中級魔族くらいだろうか。上級二位の自分に平気な顔をして近付いて来る辺り、主人のような上司がいるのかもしれない。
「ところでどうでしたか?なかなか苦戦したのでは?試運転の成果をまとめなければならないので、感想の一つや二つ、お聞きしたいものですね」
「試運転?・・・貴方の主人は、あたし達を誘き出す事でそれの性能をチェックしたかった、という解釈で良いのかしら?」
「はい、そうなりますね。それで、どうだったんです?なかなか強敵だったでしょう?」
舌打ちする。実際そうだったからだ。
しかし、次に当たった時はこうはいかないだろう。言い訳するようだが、相手が強いと最初から分かっていれば手なんて抜いたりはしない。
「晶獣風情とはいえ、ちゃんと通用する事が証明されたようですね。きっとお嬢様もお喜びになられます。では、ご協力有り難うございました」
一方的にそう告げたその魔族は恭しく一礼すると来た時同様、起動した術式に身を任せて消えた。
「・・・イーヴァ。事情が変わったわ、サイラスを運びましょうか」
「それが良いと思います。それに――何だかサイラスさん、顔色が良くないですよ」
ちらり、とサイラスを見やる。黙っていると思えば確かに顔色が悪い――いや、ちょっと悪過ぎる。今頃になって実は変な所にも怪我をしていたとか、見える怪我とは別の要因がありそうな、そんな顔色の悪さ。さっきまで何ともなかったのに上がった息とか、とてもじゃないが良い状態とは言えない。
しかしサイラスを交代で担ぎながら少し進んだところで迎えに来たギルバードと出会った為、実質サイラスを運んだのは数百メートルだった。