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医務室にて。
取り敢えずサイラスは命や職業生命に関わる大怪我ではなかった。否、大怪我ではあったけれど人外からしてみれば普通に回復する傷だったというわけである。なお、傷の手当てを終えたサイラスは医務室のベッドで眠っており、メンバーが全員集合する中で唯一話を聴けない状態だ。
「で?何があったんだ。まさかただの晶獣相手に怪我人を出す事なんてないだろう」
作戦に参加していたのはドルチェ、サイラス、イーヴァの3名。サイラスはいないものとして、報告義務はドルチェに委ねられたのと同じだ。彼女は報告するのが嫌いらしいがそんな事を言っている場合では無い。
「そうね、相手は多分、晶獣だったわ。ただそう――今まで見た獣みたいなのじゃなくて、人の形をしていたわね。サイラスはエルフだって言っていたけれど、あたしも同じ意見よ」
「うん?晶獣と言えば奴等は結晶片。どこを見てエルフだと判断した?」
首を傾げるレックスにドルチェは悪戯っぽく笑ってみせた。そして、自らの耳を人差し指でなぞる。
「尖ってたのよ。ね、恐らくはエルフでしょ?」
「サイラスさんは純血のエルフだと言っていましたね。私にはピンと来ませんでしたが」
エルフの純血種と言われて一番に思い出すのは総督であるエリオットだ。が、普通のエルフは歳を積み、長い時間を生きる事で強くなる。若いエルフはちょっと強い人間と変わらないような個体で、そのせいか穏やかな性格の割に個体数が増えない種族だ。
であれば、その晶獣とやらがエルフのような形をしていてもおかしくはない。何せ、エルフを捕獲するのは難しい事ではないからだ。
「・・・掘り下げれば晶獣のルーツについて探れそうではあるが、手詰まりしている感じも否めないな」
「ギル、それはいいけれどもう一つ報告があるわ」
「聞こう」
「どうやら、裏で魔族が関わっているみたいね。あたし達が戦った晶獣の事を『試運転』だと言っていたわ」
――魔族、試運転。
不穏な単語が台詞の中にふんだんに散りばめてあり、頭が痛くなってくる。どうしてそう面倒な事になったと言うのか。
「ふぅむ。晶獣さえ処理出来れば今回の敵は簡単に処理出来ると思っていたが、どうもそう簡単にはいかんなぁ」
肩を竦めたレックスがどかっ、と椅子に深く座り直した。あまり深く物事を考えないタイプだからか、すでにお手上げ感が漂っている。